せっかく着物を着るなら、ヘアスタイルも着物ならではの和装スタイルに挑戦したいものですね。でも一口に「着物」と言っても、その種類は様々。フォーマルなドレスのような扱いの「留袖」や「振袖」、改まった場所にも着られる「訪問着」、おしゃれ着や普段着である「紬」や「小紋」等等…洋服にドレスやワンピース・気軽なタウンウエアがあるように、着物にも「格」の違いがあります。
また着物の場合、ミスとミセスで着る着物が違ったり、着ていく場所で着こなし方のマナーが変わることも。それぞれの着物に合わせたヘアスタイルを知っておけば、堂々と着物のオシャレを楽しめますよ。
この記事の目次
振袖・訪問着・留袖…着物の種類に合うヘアスタイルは?
振袖に合う髪型は?
「振袖(ふりそで)」は、独身女性が身につける最高ランクのフォーマル服。「袖を振る」という名前の通り、他の着物より長い袖があるのが特徴です。また若い女性のお祝い服であることから、色柄もとても華やかな傾向があります。振袖の印象に負けないラグジュアリーなヘアスタイルを愉しんでみましょう。
成人式やお正月には華やかなまとめ髪で
振袖を着る機会の代表格といえば「成人式」ですね。振袖はフォーマル服(礼服)なので、髪はアップスタイル(まとめ髪)にするのが基本です。ハーフアップやダウンスタイルは行いません。ただあまり大人しくキッチリとまとめてしまうと振袖の印象に負けてしまうので、上部や後部にボリューム感を出す等して華やかな印象にします。
成人式やお正月には振袖を着る方が主役なので、思い切ったスタイルにしても大丈夫。シニヨンを少し崩して垂らしたり、逆毛を入れて派手な印象にする等をしても問題はありません。ただ古典柄の振袖の場合ですと、現代的ないわゆる「盛り髪」は似合わないことも。振袖の柄に合うスタイルかどうか、美容師さんとよく相談してみることをおすすめします。
結婚式にはフォーマルさを意識して
ご友人やご家族等の結婚式の参列に振袖を着る時は、成人式とまったく同じスタイルにするのはNG。結婚式の場合、主役は「花嫁さん」で、参列者は「脇役」です。ですから主役である花嫁よりも華やかで目立つようなまとめ髪は避けます。特にトップにボリュームを出しすぎると、写真撮影等の際に非常に目立つので気をつけましょう。
また、束ねた髪の毛先を長く垂らす(揺らす)ような髪型はカジュアルさが強くなるので避けた方が無難。特に毛先が揺れるような髪型は「結婚の不安定さ」を示すものとなり縁起が良くないので、毛先をしまいこむスタイルにした方が良いでしょう。
訪問着に合う髪型は?
訪問着(ほうもんぎ)とは、肩から裾まで柄がひと続きにつながっている着物のこと。「略礼装」という軽めのフォーマル服で、結婚式やパーティー・入学式や入園式・七五三・観劇等、幅広いシーンで着ることができます。ミスもミセスも着られる着物です。
観劇やパーティー等に訪問着を着る時は?
同窓会等のパーティー、観劇といったシーンの場合には、フォーマルとは言えどやや気軽な雰囲気がありますね。この場合には「夜会巻き」「まとめ髪」「編み込み」等で、少し崩した雰囲気の髪型にしてもOKです。逆毛を入れてオシャレ感を出したり、編み込みから少し毛先を出して遊ばせる、毛先を散らすといったアレンジも楽しめます。
式典や結婚式に訪問着を着る時は?
結婚式や式典といった改まった場に訪問着を着る場合には、毛先をしまいこんだ「夜会巻き」がベスト。特にミセスの方が訪問着を着用される場合、毛を遊ばせたりルーズにまとめるのは厳禁です。とは言えお祝い事ですから、カールを強めにかけてボリューム感を出したり、シニヨンの形で華やかな雰囲気を作ります。
留袖に合う髪型は?
「留袖」とは、帯から下の部分にだけ柄が入っている着物のこと。ミセスが着る最高ランクの礼装である「正礼装」で、家族の結婚式といった特別なお祝い事のために着用します。黒い留袖は「黒留袖」、その他の色の留袖は「色留袖」と呼ばれます。
留袖にはフォーマル感のある夜会巻きで
「留袖」は純フォーマルな着物なので、カジュアルさを感じさせる髪型はNG。後れ毛等を出さず、毛先をすべて上品にまとめた「夜会巻き」が基本となります。フロント・サイドに櫛目をしっかりと入れて、上品な印象を作りましょう。強めのカールや逆毛等は入れないのが基本です。
サイドとバックにはボリュームを出して、控えめながらもお祝いらしい雰囲気を作ります。年齢を重ねた方で髪のボリューム感が落ちている場合等には、「盛り髪ベース」を入れると後頭部のふっくらとしたボリュームが演出できますよ。
お若いミセスの場合には、耳よりも高めの位置にまとめ部分を作ると華やかな夜会巻きとなります。反対に落ち着いた印象にしたい場合には、耳よりも低い位置に髪をまとめます。
小紋や紬に髪型は?
着物の全体に柄が散っている「小紋(こもん)」や「紬(つむぎ)」等の着物は、上記でご紹介した着物とは異なり「普段着」の扱いとなります。ただ現在では普段着に着物を着る人が少ないので、「街着・おしゃれ着」といった感覚ですね。フォーマル服ではないので、結婚式や式典等には着用できません。
さりげないお洒落を愉しんで
普段着風の着物である小紋や紬は、フォーマル着物ほどマナーにこだわる必要はありません。まとめ髪・編み込み風・レトロ調等、着物の雰囲気に合わせたヘアファッションを愉しんでいただけます。また留袖・振袖等の場合ではヘアセットにプロの手を借りた方が良いことが多いですが、ふだん着物ではセルフセットでOKなのも魅力です。
ただフォーマル着物が「しっかりと華やか!」に作った方が良いのに比べて、小紋や紬ではあまり派手派手しい髪型だとバランスが悪くなります。洋服の時の「タウンウェア(ショッピングやデート等でのお出かけ着)」を着る感覚で、さりげないお洒落さを心がけると良いでしょう。
浴衣に合う髪型は?
浴衣(ゆかた)は「浴」という漢字が入っているとおり、元々は入浴後のバスローブのように着るための着物でした。着物の格としては「ルームウェア」「ワンマイルウェア」といった扱いで、洋服でいうとTシャツのような感覚です。現代では花火等の夏のイベントに着る「おしゃれ着」として着用する人も多いですが、結婚式等の式典やドレスコードがあるようなレストラン等には着用できません。
夏らしいヘアスタイルが魅力
カジュアルウェアである浴衣の場合、ヘアスタイルのマナーを気にする必要はほぼありません。ふだんのお出かけ着と同じような感覚で、自由なスタイルを愉しんでみましょう。ただ古典柄等の伝統的な柄行の場合、ダウンスタイル・ハーフアップといったスタイルだとバランスが悪くなることも。また夏期に着るものなので、襟足を出したヘアスタイルを意識して首をスッキリと見せた方が爽やかな着こなしになります。
ショートやボブの着物ヘアスタイルはどうする?
着物が日常着であった時代には「女性の髪型=ロングヘア」と決まっていたため、着物に合うヘアスタイルというと現代でも「夜会巻き」等のアップスタイルが定番となっています。でも普段の髪型がショートカットやボブスタイルの場合には、どうしたら良いのでしょうか?
ボブカットは「まとめ髪風」に
トップや襟足にある程度の長さのあるボブは、まとめ髪にする長さが足りなくても「まとめ風」に作ることができます。襟足部分をカールさせてまとめると、アップスタイルのような仕上がりに。またトップのボリュームが足りない場合には、ボリュームアップベース(盛り髪ベース)を入れたり「つけ毛(エクステンション)」を付けて、ふんわりとした毛量を演出します。
ショート~ショートボブはアレンジで和装風に
トップが短いショート~ショートボブの場合には、以下の点に気を遣ったヘアアレンジをすると和装とのバランスが良くなります。
1)前髪を斜めに流すか上げる:特に留袖・訪問着等の礼装の場合、前髪をまっすぐ下ろすと幼い雰囲気になりバランスが取りにくいです。前髪を長めにして流す、ピッタリとまとめるといったスタイルにすると、しっとりした大人らしさが演出できます。
2)サイドはタイトにまとめる
フェイスラインに髪がかかる状態だと、雰囲気がカジュアルになり礼装には向きません。サイドの髪は耳にかけるかタイトにまとめて、スッキリとしたフェイスラインを強調します。
3)トップとバックにボリュームを出す
華やかな着物の場合、頭が小さすぎるとバランスが悪く見えてしまうことも。トップに軽く逆毛を入れたりバック部分にゆるくカールを入れて、ふんわりとしたボリューム感を出しましょう。
着物に合わせた髪飾り選び
ヘアスタイルと一緒に考えておきたいのが「髪飾り」。後ろ姿を華やかに見せる髪飾りは、和装ならではのアクセサリーとも言えます。ただこちらもお着物の種類によって似合う飾りが変わりますから、ピッタリと来るものを選びたいですね。
振袖に合う髪飾り
若々しさと華やかさがある「振袖」の場合、シックな鼈甲(べっこう)・珊瑚・塗り等のシンプルな髪飾りだとボリュームが足らず、髪が寂しく見えてしまうことも。若い女性だからこそ身につけられる大きめの花飾り・揺れるかんざし等、ボリューム感があり華やかな髪飾りをコーディネートしましょう。
訪問着に合う髪飾り
訪問着は古典的な柄行が多いので、純和風のデザインの髪飾りがピッタリ。花飾りにする場合には振袖に使うような大きいものは避けて、小ぶりでやや控えめなもの、揺れずにピッタリと髪に沿うデザインを選びます。
ミセスが訪問着を着る場合には、鼈甲・珊瑚・塗り・銀等の上品な「簪(かんざし)」をプラスするのがおすすめ。またお祝い事の場合、パールの髪飾り等も上品な華やかさを演出してくれます。訪問着の柄行が華やかな場合には、やや大ぶりの簪を付けた方が髪と着物のバランスが取りやすいです。
留袖に合う髪飾り
留袖は完全にフォーマルなミセス向けの着物なので、ラインストーン等の光り物の髪飾り・洋装向けの髪飾りやカジュアルすぎるデザイン等はNG。鼈甲や塗の簪、パール素材の髪飾り等で、小ぶりで品のある「大人らしさ」が感じられるものを選びます。個性的なデザインを避け、伝統的・古典的なものを選んだ方が着物とのバランスが取りやすいです。
気をつけたい!結婚式での着物ヘアスタイルのマナー
ご家族や親戚・友人知人の「結婚式」は、着物を着る絶好の機会ですよね。でも結婚式の場合には、普段とは異なるヘアスタイルのマナーがあります。知らずに髪飾りを付けてしまうと、失礼にあたることも…。結婚式の着物準備をする時には、以下の点に気をつけましょう。
生花を飾らない
成人式の髪飾りとしては大人気の「生花」。最近ではカサブランカ等の大ぶりのお花を付ける人も多いですね。でも結婚式では生の花を髪飾りにするのは厳禁!生の花冠・花飾りを付けられるのは主役である「花嫁」だけなので、参列者は生の花を使用しません。
冠飾りもNG
最近の成人式ですと、ティアラのような髪飾りを付けている女性も多いですね。でもこのよな「冠」を連想させる飾りは、主役である花嫁のブーケと被るので失礼にあたります。
白い髪飾りを避ける
「白」は花嫁の色ということで、洋服の時には白い服を礼服に着るのはNGですよね。これと同じで、白い髪飾り(特に白い花飾り)は花嫁と同じになることから、結婚式では避けた方が良いとされています。なおパール(真珠)は慶事用の飾りなので使ってもOKです。
揺れる髪飾りもダメな理由は?
成人式やお正月の振袖等に人気の「揺れるかんざし」。華やかな印象がありますが、垂れ下がるデザイン・揺れるデザインは結婚式では控えます。これは「揺れるもの」が結婚後の不安定さを連想させるため。ユラユラと揺れる簪は、結婚の場では縁起が良くないと考えられているんです。
動物素材とフェイクファーも避けて
結婚式では「殺生(せっしょう・動物を殺すこと)」を感じさせる素材を避けることもマナーのひとつ。リアルファーや鰐皮・蛇革等のレザー素材を使った髪飾りの使用は避けます。またフェイクファーは実際には殺生をしているわけではないのですが、見た目に本物とニセモノの区別が付けにくいので避けた方が無難です。