選び方ハウツー

着物の柄

「着物の柄は季節で変える」ってホント?季節の花と柄選びのポイントとは

着物ブームの再燃によって、アンティーク着物や普段着キモノを気軽に着る方も増えましたね。また式典やお友達の結婚式等の際にキモノに挑戦する!という方も多いようです。でも着物って、季節に合わせて柄選びをするって知っていましたか?着物の柄によっては、「季節外れ扱い」を受けてしまうことも…。「あの人の着物選びは素敵!」と思われるように、着物の花柄選びのポイントも知っておきたいですね。

今回は花柄等の四季を感じさせる柄の選び方、オールシーズン着られる柄等についてご紹介していきます。

花の柄はいつ着ればいい?「季節の柄」に対する考え方

花柄の着物
着物の柄で最も多い「花の柄」。様々な花模様の着物がありますが、季節感をどのように演出していけば良いのでしょうか。まずは着物の柄について、基本的な考え方を知っておきましょう。

「後追い」はカッコ悪い?

まずは「着物だから」とかしこまらずに、洋服のオシャレの感覚で考えてみましょう。例えば各ショップだけでなく街の中でも春物の服が目立つようになってきた3月頃や4月のはじめ。「ちょっと寒いから」といって、分厚い雪模様のアランニットを着ている人がいたら…「あんまりオシャレじゃないな」「もう春なのに」という感じがしませんか?

「洋服だとピンと来ない」という方は、お店のショウウィンドウのデコレーションを思い出してみてください。11月に入ったのにハロウィンの小物が飾ってあったり、1月になったのにクリスマスの小物がピカピカ光っている…こんなお店を見ると「なんだか残念」と思わないでしょうか。

着物の柄に対する感覚もこれと同じで、「季節を後追いするのは美しくない」と考えられています。例えば春を過ぎた初夏の頃になっても春の花の柄を着る、秋になったのに夏の柄を身につける…このような「後取り」は、いつの時代にも「おしゃれではない」と見られるものなのです。

「花の盛り」に合わせるのは?

「じゃあ、春には春の花柄を合わせれば正解!」というと、実はこれがそうとも言い切れません。今回も洋服で考えてみましょう。ピンクの花が満開になっている庭園に遊びに行って、SNS用に写真も撮りたい…こんな時、「自分もピンクの同じ花柄を着る!」という人は少ないはず。

同じ色味だと花に埋もれて目立たなくなりますし、咲き誇る「生の花」のキレイさに、服の柄が負けてしまいそうですよね。また「なんかクドい…」「服の柄がうるさい」と感じる人も多いのではないでしょうか。

花の盛り(満開の時期)は、「花そのもの」が最も美しく迫力を持つ時期であり、それに人間一人が着物で対抗をするのは難しいところ。またせっかく花がキレイなのに、そこに同じ花を重ねることに「しつこい、くどい」と感じる人も多く居ます。

例えば「満開の桜のお花見」に、ピンクの桜柄キモノを着てくる」というのは「粋ではない」というところ。マナー違反というわけではないのですが、「野暮ったい」「おしゃれじゃない」と捉えられる可能性が高いんです。

基本は「季節の先取り」!

日本人は昔から、四季を「少し先取りすること」を好んできました。暦の上では初春だけれど、まだ梅は咲いていない…そんな時にこそ「梅の着物」で春を心待ちにしたり、二部咲き程度の桜の頃に満開の桜の着物を着て「そろそろ花の盛りだなあ」と感じたり…「少しだけ早い季節」を花や自然の柄で取り入れることで、「これから来る季節」を楽しむ心を味わってきたのです。

洋服でも、オシャレな人って「ちょっと早い春物」「少し夏らしい服」を早々にコーディネートに取り入れたりしますよね。着物の感覚もこれと同じと言って良いでしょう。もちろん「早ければ早いほどよい」というものではないのも、洋服も着物も同じです。

季節をイメージさせる花柄とは?

桜

「花がいつ咲くって、桜くらいしか気にしたことがなかった…」という人も居るかもしれませんね。まずは季節を代表する花について知っておきましょう。季節を強く感じる花とは、カンタンに言えば、「カレンダーに描かれる花」といったところ。6月の紫陽花、8月の向日葵等はご存知の方も多いはずです。代表的な花について抑えておくと、着物の柄選びがグッとラクになりますよ。

【月・季節をイメージさせる花】

1月:松・竹・南天・蝋梅等

お正月は「松竹梅」のおめでたい柄行がピッタリの季節。また旧暦1月が梅の季節であったことから、お正月(初春)にも白梅・蝋梅といった柄行が使われることもあります。

2月:水仙・椿(寒椿)・紅梅

冬の椿は10月~4月頃に咲く花ですので、比較的長く着られる柄行と言えます。水仙は雪割草等と同じく「雪をのけて咲く、春を告げる花」ですので、まだ寒い2月頃を想起させます。

3月:桃・木蓮・辛夷

3月3日の桃の節句(ひな祭り)は有名ですよね。また桜の前に春らしさを感じさせる花としては木蓮や辛夷等が挙げられます。

4月:桜

4月に何かと話題となる花と言えば。3月下旬~4月上旬が標準的な盛りの時期ですが、地方によっては5月に満開となることもあります。お花見・ガーデンウエディングといった屋外イベントの場合には、実際の満開時期等にも注意しておくと良いでしょう。

5月:牡丹・菖蒲・藤・あやめ・杜若

は標準的にはゴールデンウィーク頃に見頃を迎える花。また菖蒲は5月5日の「こどもの日(端午の節句)」に菖蒲風呂に入るため、5月上旬をイメージさせます。

6月:紫陽花・花菖蒲・緑の紅葉(もみじ)・柳

紫陽花の花は6月の梅雨の時期をイメージさせる花。また紅葉(もみじ)は赤い葉ですと「秋」のイメージですが、若々しい青い葉は初夏を感じさせる植物として扱われます。

7月:竹・笹・朝顔

7月7日の七夕(たなばた)には、笹飾りを飾りますよね。そのため特には、7月上旬までの夏の始めをイメージさせます。朝顔は7月~8月上旬の夏の盛りを印象づける花です。

8月:朝顔・向日葵

8月のイメージと言えば朝顔や向日葵。ただし8月も7日頃をすぎると「立秋(りっしゅう)」となり、暦の上では「秋」ということになります。そのため8月のお盆を過ぎた頃からは、秋口の花の装いをされた方が良いですね。

9月:撫子・萩・桔梗

可愛らしさのある撫子(なでしこ)は、初秋を感じさせる人気の花。また萩や桔梗は大人らしい柄行で、訪問着等にもよく用いられます。

10月:紅葉・菊・薊

秋らしさを感じさせる「もみじ」等の紅葉する植物は、10月~11月頃を想起させる柄行です。

11月:山茶花・柊

山茶花(さざんか)は寒椿から作られた品種で、11月初旬~中旬頃に咲き始める花。一見すると椿にソックリですが、椿のように花ごと落ちず、花びらを散らすのが特徴です。椿を「首が落ちる」といって嫌う方もいらっしゃいますが、「山茶花ならOK」という方も多いですね。

12月:椿・松

寒さの厳しい冬の中にあっても常緑を保つ「」は、冬らしい清々しさを感じさせる植物です。

着物では前述のとおり「少し季節を先取り」しますから、この花カレンダーの概ね「1月~1ヶ月半」程度を先取りすることを意識すれば、上手に季節を先取りしていけます。例えば5月頃に盛りを迎える「藤」の着物を着るのなら、一ヶ月前の4月頃がうってつけ…という具合ですね。

「この例に載っていない花の柄はいつ着たらいいの?」と考えてしまったら、お花の開花時期・盛りの時期等をチェックしてみるのも手。標準的な盛りの時期の1ヶ月前程度を基準にしてコーディネートを考えてみると良いでしょう。

このような花柄選びのコツを知っておくと、浴衣(ゆかた)選びの際にも重宝します。例えば6月~7月上旬の早い時期に浴衣をお召しになるなら、朝顔といったいかにも夏らしい柄行の方が「夏らしい!」といった雰囲気で素敵。でも8月に入ってから浴衣を着るなら、少し早い秋を感じさせる「撫子(なでしこ)」の方がオシャレ、というわけです。

オールシーズン着られる柄もある?

「あんまり着物を着ないのに、1~2ヶ月程度しか着られないなんて!」…初めて着物にチャレンジされる方の中には、こんなふうに思った方もいらっしゃるはず。「私の着物、桜の模様が入っているから春前にしか着られないかも…」と不安になってしまった人も居るかもしれません。

でもご安心を!花柄等の自然をモチーフにした着物でも、一年を通して着られるものもあるんです。

四季折々の花が入っていれば「オールシーズン」!

留袖や訪問着、振袖といったフォーマル向けの着物では、桜・菊・撫子等、それぞれの四季を表すような花が描かれていることが多いもの。これは「四季がめちゃくちゃ!」というわけではなく、「どんな季節にも合わせられる着物」という意味合いが持たされています。

留袖・振袖といった礼服は、昔の人にもなかなか誂えることができない「高級品」でした。春には春の礼服を、秋には秋の礼服を…といった贅沢は、貴族や豪商といった方々のためのもの。一般的には、各季節用の礼服は用意することができなかったんですね。「いつでも着られる礼服を…」そんな意味も込めて、現在でもどの季節にも対応した花柄の着物が多数作られています。

例えばこれから「成人式」の着物を購入されるという場合、「成人式だけでなくて、友だちの結婚式にも振袖を着たいな…」と考えている方も多いはず。そんな時には上記のような「四季折々の花」が入っている柄行の古典柄を選べば、お友達の結婚式がいつであっても大丈夫!というわけです。

蝶の柄も四季を通じて着られる?

モンシロチョウやアゲハチョウ等の「蝶々」というと、「春っぽいイメージ」と思われる方も多いことでしょう。もちろん蝶の柄は、春を思わせるコーディネートにもピッタリ。でも蝶柄は基本的に、通年着ることができる柄行なんです。

これは蝶が「縁起の良い柄」であるため。蝶は幼虫から蛹(さなぎ)となり、そして蛹を破って美しい姿で飛び立ちますよね。その姿が「出世をする/成長をする」というイメージと重なり、日本では貴族も武家も「蝶の柄」を多く取り入れてきました。

春夏秋冬を問わずに「蝶」のデザインは登場するので、現在でも「通年OK」という考え方が根付いているんです。

ただ蝶柄は「一年中OK」である分、着物の「色味」で季節感を出すコーディネートが好まれます。

例えば春ならば淡いパステルカラーが「春らしい!」と思われますし、秋口ならばしっとりとした色合いの方が向いていますよね。蝶柄着物をお召しになる時には、着物の地色や帯等との色合わせに工夫をしてみてはいかがでしょうか。

「梅や桜の柄は通年着ても平気」ってホント?

「梅」「桜」の柄については、「通年着られる」という説と「季節ものだ」という説があり、困ってしまっている人も多いのではないでしょうか?「梅」は「松竹梅」等の縁起物として、また「桜」は「日本の国花であるから」という理由等から、通年を通して着られる柄であると考えられています。

ただし梅・桜の「柄行き」によって、受け取られるイメージが変わってくるので要注意。「桜の花のみ」「梅の花のみ」といったデザイン的・記号的な柄の場合には上記のような「縁起物」の印象が強いので、概ね通年を通して着ることができます。

しかし「桜の木に花が咲いている」「桜の枝に花が咲き、更に花が散っている」というようなリアリティのある図柄の場合、「季節の花」という印象が強くなります。

こちらの柄行の場合ですと、やはり「春(3月~4月)」のイメージが強いため、夏秋冬のお召しにはあまり向いていません。同じ「桜柄」でも意味合いが異なってきますので、ご購入等の場合には呉服店の方とよくご相談をされておくことをおすすめします。

おわりに

季節に合わせた着物の柄選びのポイントはいかがでしたか?「ちょっとだけ季節を先取りした着物のコーディネート」をすると、周囲の人も「ああ、もうすぐ春なんだな(夏だな)」といった季節の移り変わる喜びを感じられます。自分だけでなく、周囲の人も楽しませる…これこそが本当の「粋なオシャレ」の心意気と言えるかもしれませんね。「ちょっと先のシーズンを見るワクワク感」を、着物コーディネートにもどんどん取り入れてみましょう!

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