気をつけていたつもりでも、ついつい付けてしまう着物の汚れ。食べこぼしや飲み物のハネ、泥ハネやメイク用品の汚れ等等…「しまった!」と思った時には付いていること、ありますよね。洋服の時なら「家に帰って洗濯機に入れれば大丈夫!」ということもありますが、着物のだと家で丸洗いができないものの方が主流。「この着物のシミの応急処置はどうしたらいいんだろう」「家で着物のシミ抜きってできるの?」と困ってしまった方も多いのではないでしょうか?
この記事の目次
シミの原因で違う!着物が汚れたら速攻でする応急処置
お出かけ先で「シミができちゃった!」と思ったら、「とりあえず」の応急処置をしておきたいと思いますよね。たしかに早いうちに応急処置をしておくことで、その後のシミ抜きがラクになることもあります。でもこの時に対処法を誤ってしまうと、後になってなかなかシミが取れない…なんてことも。適切な応急処置・対策を知っておきましょう。
◆飲み物類の場合 🢂 キレイなハンカチ・ティッシュでまず汚れの水分を優しく吸い取ります。その後、乾いたタオルをシミの裏側にあて、表からぬるま湯か水につけて硬く絞ったタオルかハンカチで軽く叩くように汚れを移していきます。最後にもう一度乾いたタオルで水分を十分に吸い取りましょう。
◆血液の汚れの場合 🢂 手順は上記の「飲み物類の場合」と同じでOK。ただ「ぬるま湯」を使うと血液が固まって取れにくくなるので、すべて「水」で作業をしてください。
◆食べ物類の場合 🢂 固形物が残っていたら、ティッシュ等でそっと優しく摘みとります。ドレッシング等の液状ハネの場合には、キレイなハンカチ・タオル等で水分を吸い取っておきます。油が混じっている可能性が高いので、お湯・水等で濡らさないこと。かえって汚れを広げてしまいます。また汚れを取ろうとタオルを強く押し付けると汚れが繊維の奥に押し込まれるので、ごく軽く触れるように気をつけましょう。
◆泥ハネの場合 🢂 多量に水分が付いてしまった場合のみ、水分だけをタオル・ハンカチ等で優しく吸い取ります。泥に含まれる砂は水や油に溶けないので、それ以上濡らしても汚れを広げるばかりです。早めに乾燥させるようにしましょう。
◆ファンデ・口紅汚れの場合 🢂 ファンデーション・口紅等のお化粧品の汚れは、油分・顔料等を多量に含むため「水で落とす」ことができません。また吸着力が非常に強いため、叩いて落とそうとするとかえって汚れが広がったり、繊維に細かな汚れが押し込まれてしまいます。口紅等がベッタリついた場合等にはその部分だけをティッシュ等で優しく摘み取りましょう。ファンデーション汚れ等は叩き落とそうとせず、できるだけ触れない方が帰宅後にシミを落としやすくなります。
◆文房具の汚れの場合 🢂 ボールペン・マジックペン・墨・ペンキといった汚れが付いてしまった場合には、出先での応急処置は行わないでください。拭いても汚れが落ちないだけでなく、色素が生地に広がりだしてシミ範囲が拡大する恐れがあります。特に水性ペン・水性インク等には鉱物由来の顔料が多量に含まれるため、ご自宅でのシミ抜きも困難です。できるだけ早く和装のクリーニングに対応する専門店に持ち込みましょう。
自分でシミ抜きしても大丈夫?6つのチェックリスト
お出かけ先で汚れを作ってしまったら、帰宅後に早めに着物の汚れ落としをしたいところ。でも着物の素材や染色は洋服とは異なり、ものによっては自宅でのシミ抜きができないこともあります。自分でシミ抜きができるかどうか、以下のポイントをチェックしてみましょう。
1.素材が「正絹」以外ですか?
「正絹」(シルク)はとても傷みやすい素材です。シミ抜きによって素材が縮んだり、変色・色抜け等を起こすことがあるため、ホームクリーニングはおすすめできません。新しく購入したお着物の場合には、洗濯表示・製品同封の説明書き等に素材説明が付いていますので、まず素材を確認してみましょう。
【正絹素材であることが多い着物】
・振袖
・留袖(喪服)
・訪問着
・色無地
上記のようなフォーマル向けのお着物には正絹が多く用いられます。また絽・紗等のシースルー素材も、正絹もしくは絹の配合率が高い織物である可能性が比較的高いです。反対に小紋等の「普段着向け」の着物の場合、綿や麻・ウール・ポリウレタン等の化学繊維であることも。ご不安な場合には、お近くの和装専門店等で素材を見ていただくことをおすすめします。
2.シミ汚れの範囲は「2センチ」以内ですか?
シミ・ハネの範囲(丸い汚れのおおまかな直径)が3センチ以上という場合、シミの範囲がかなり広く、色素や油分が多量に繊維に染み込んでいる可能性が考えられます。自己処理で全ての色素を取ろうとすると生地をこすって傷めてしまい、変色の原因となることも。
3.シミがある部分の「生地の色」は?
シミができた箇所の「着物の生地の色」が以下のような濃い色の場合、ご自宅でのシミ抜きはあまりおすすめできません。
【濃色系の着物の例】
・黒(喪服)
・紺
・濃い紫
・ワインレッド 等
着物の生地は「摩擦(こすれること)」に強くなく、シミ抜きによる摩擦で「毛羽立ち」「変色」等の傷みが起こることがあります。特に上記のような濃色系のお着物の場合、傷みによる色の変化が目立ちやすく、その箇所だけが悪目立ちしてしまうことも。
4.シミの部分に「刺繍」はありますか?
細かな糸で作られた「刺繍(ししゅう)」の部分は、着物の生地の中でも特にデリケート。刺繍糸の素材や染色方法が生地とは異なるため、例えば生地が「ポリエステル」「綿」といった比較的洗いやすいものであっても、刺繍部分が傷んでしまうことがあります。
5.シミの箇所の生地に「金箔」「銀箔」がありますか?
着物の模様の中にキラキラと光る部分がある…これは「金」「銀」等の金属素材を使った「箔押し加工(金箔・銀箔)である可能性が高いです。最近では礼服(振袖、留袖等)だけでなくカジュアル服である浴衣等にも金箔が使用されていることがあります。
金・銀等の素材は水洗いができず、また非常に変質しやすいため溶解剤(ベンジン)等の安易な使用も危険です。箔が取れてしまったり、最悪の場合には箔部分やその周辺が変色してしまうこともあります。
6.シミの原因はハッキリわかりますか?
「今日のおでかけで作ったシミ」ということはわかるけど、料理のシミなのか化粧品のシミなのかもわからない…このような場合にはホームケアを避けた方が無難です。シミ抜きでは「水溶性」「油溶性」によって対応が異なるため、誤ったケアをしてしまうとその後にシミが落ちなくなることもあります。シミの状態等から原因をある程度特定してくれる専門家におまかせした方が安心です。
自宅で着物のシミ抜きに挑戦!原因毎の対処法
上記のチェックポイントをすべてクリアしていたら、自分での着物のシミ抜きに挑戦してみましょう。シミ抜き方法はシミの原因によって異なりますので、適切な方法を選ぶことが大切です。
飲み物等の水溶性のシミの落とし方
油を含まない「水溶性」のシミは、ごく少量の水分と洗剤で落としていくことができます。ただし通常の洗濯洗剤(洗浄力の強いアルカリ性洗剤)ですと生地を傷めたり変色させる原因となるので、作用の優しい「中性洗剤」を使用しましょう。
【用意するもの】
・中性洗剤
・タオル3枚~4枚
・綿棒
・洗面器等の容器
・和装専用ハンガー
【シミ抜きの手順】
1)洗面器に水もしくはぬるま湯を張り、中性洗剤を垂らして10倍~15倍に薄めます。
2)乾いたタオルをシミの裏側にあてておきます。
3)もう一枚のタオル(シミ範囲が狭い場合は綿棒)を1)で作った溶液に浸します。
4)タオルか綿棒でシミ部分を優しく叩き、汚れを移し取っていきます。
5)綿棒やタオルが触れる場所は頻繁に変えて、常にキレイな面が着物に触れるようにしてください。
6)色素の汚れが落ちたのを確認したら、ぬるま湯にひたして硬く絞ったタオルで再度シミ部分を叩きます。(洗剤の成分が残るのを防ぎます)
7)最後に乾いたタオルで、残った水分を優しく叩いて吸い取ります。
8)和装ハンガーに着物をかけて形を整え日陰に1日以上干し、しっかりと乾燥させます。
※シミ部分に溶液をつける前に、必ず着物の裏面等の目立たない箇所に少量の溶液を付けて、変色・色落ち等が起きないか事前テストをしましょう。タオルへの色移りや変色が見られる場合はシミ抜きを中止します。
※血液汚れの場合にはぬるま湯を使わず、水で作業をしましょう。血液がお湯の温度で固まり、汚れが取れなくなります。
食べ物類・化粧品等の油溶性のシミの落とし方
油分を含む油溶性のシミは、中性洗剤やぬるま湯等では落とせません。油分を溶かし出す働きを持つ「揮発油(ベンジン)」を使って成分を分解し、油汚れを別の布に移すことでシミを取っていきます。
【用意するもの】
・ベンジン(クリーニングに使える精製度の高いもの。工業用等はNG)
・タオル
・Tシャツ等の布、もしくはガーゼ
・和装専用ハンガー
1)シミの裏側にタオルをあてておきます。
2)ベンジンを少量ガーゼに含ませます。
3)ガーゼを丸めるように持ち、シミ部分をトントンとごく軽く叩くようにして汚れをガーゼに移しとっていきます。
4)ガーゼと着物が触れる面をどんどん取り替えて、「ガーゼ側」に汚れが移るようにしてください。
5)汚れが取れたら、ガーゼでシミの外側→内側へと叩き、ベンジンで濡れた部分の輪郭が丸くぼやけるようにします。(十分にぼやかさないと輪染みの原因になります)
6)和装ハンガーに着物をかけて日陰に1日以上干し、しっかりと乾燥させます。
※シミ箇所にベンジンをつける前に、必ず着物の裏面等の目立たない箇所で変色・色落ちテストを行ってください。優しく触れても色落ちが起こる場合には、シミ抜きを中止します。
※ベンジンで強くこすると、着物の色ハゲ・色落ち・変色が起こります。必ず優しく触れるように気をつけましょう。
※ベンジンは揮発性の油です。必ず窓を開けて、換気した状態で作業しましょう。
※ベンジンは可燃性の油です。作業中の料理・喫煙は引火の恐れがあります。作業中は火気厳禁としてください。
泥汚れ・泥ハネの場合
泥汚れや泥ハネの汚れの原因である細かな砂は、石けん(洗剤)やベンジンでも溶かすことができません。そのため水分をできるだけ取って乾燥させ、物理的に掻き出していくことになります。
【用意するもの】
・タオル2枚
・和装専用ハンガー
・歯ブラシ(毛質のやわらかいもの)
1)シミ部分に水分が多量に残っている場合(雨濡れ等)には、キレイなタオル2枚でシミを裏・表の両方から挟み、軽く叩くようにして水分を取っていきます。
2)着物を和装専用ハンガーにかけて陰干しし、十分に乾かします。
3)歯ブラシをごく優しくシミ部分にあてて、繊維の奥に入った泥・砂を取り出していきます。この時、必ず同じ方向に向かってブラシを動かすこと。歯みがきの時のようにゴシゴシと往復させると、生地を傷める原因になります。