日本の様々な織物の中でも、著名な部類に入るのが博多織(献上博多織)です。その名前を知らない人でも、博多織で作られた帯(博多帯)の柄を見れば「あ、なんだか見たことがある」という人がほとんどではないでしょうか。
キュッと締めやすく、一度締めたらゆるまない便利な博多織は、女性向けだけでなく男性向けの帯や浴衣の帯等にもよく使われています。それだけポピュラーな織物なのですが、中には超高級品や重要文化財クラスの物も。中古品でも非常に高額で取引をされる献上博多織もあるのです。
今回はこの博多織・献上博多織について、その特徴を詳しく解説していきます。
この記事の目次
博多織・献上博多織とは
博多織とは、福岡県福岡市・博多地区を中心に生産される織物のことです。絹織物が中心ですが、製品によっては絹以外の素材が使用されることもあります。
原則として先染めの糸を使用し、細い経糸(たていと)を30本~60本使いながら太い緯糸(緯糸)を強く打ち込んでいく製造方法が取られます。その工程に力が必要であることから、かつて手織りのみで生産されていたころの「博多織」の織り手は力の強い男性しかなることができなかったそうです。
緯糸を強く打ち込むことで経糸が浮き、独特の表情が生まれます。生地自体にも厚みが出るため、強くハリがあるのが特徴です。しなやかで緩みにくいという特性から、特に「帯」に向く織物として扱われています。
きもの地・袴等の生産もありますが、現在も帯の生産が強く全国的に有名です。男性の角帯や女性の単衣帯、名古屋帯、また着付けに使用する伊達締め等も生産されています。この他ネクタイやバッグ等、洋装向け製品の展開も活発に行われています。
1976年には帯の生産が経済産業大臣による伝統工芸品の指定を受け、2011年にはきもの・袴についても伝統工芸品認定となりました。
博多織の中でも仏具や宝具を図案化した柄を織り込んだものを「献上柄(けんじょうがら)」と言います。かつて博多織の高級品を将軍に献上したことから生まれた名前ですが、現在でも博多織高級品のことを「博多献上・博多献上織」とも呼びます。
博多献上柄の意味
博多献上織りには、独特の柄が織り込まれています。これは獨鈷(どっこ)や華皿(はなさら)等の宝具と縞柄を組み合わせたものです。各柄のモチーフには魔除けや厄除け等の祈りや願いが込められています。代表的な柄とその意味を知っておきましょう。
親子縞(おやこじま)
太い線は「親」、細い線は「子」を表します。親である太い線が子の細い線の外側にある「親子縞」は、親が子どもを護る姿を示したものです。家内安全の祈りや小さな子どもを守りたい時等に使われます。「中子持ち、中子持縞」とも呼ばれます。
孝行縞(こうこうじま)
孝行縞は親子縞とは逆で、「子」である細い線が「親」である太い線の外側にあります。子どもが親から巣立ち、広がっていくという意味があり「子孫繁栄」「成長」等の願いが込められています。
獨鈷(どっこ、とっこ)
獨鈷・独鈷とは、真言宗・天台宗等の密教や一部禅宗等にも伝わる法具の一種です。銅や鉄等で作られており、密教では「煩悩を打ち砕く菩提心」として扱われています。博多献上織りでは、魔除けの意味を込めてこの独鈷の模様が使われます。
華皿(はなさら・はなざら)
こちらも密教系で使用される法具の一種で、仏様を供養するために「散華(さんげ)」として花を撒き散らす際に使用します。ちなみに現在の日本では本物の花ではなく、蓮の花びらをかたどった紙を撒くことが多いです。華皿も厄除けの意味を込めて織り込まれます。
博多織・献上博多織製品の見分け方と証紙
博多織工業組合が定める基準に合格した製品には、「博多織」として認定を受けた証である証紙が貼り付けられています。この証紙の内容によって、製品の素材や使用された技法等を見分けることができます。
金証紙(金の四角の証紙)
絹を50%以上使用している着物または帯に貼られる証紙です。白い長方形に金色の枠が引かれており、金で「博多」の印が入ります。「正絹之証」という文字が入っています。
青証紙(青の四角の証紙)
絹の使用率が50%以下の着物、または帯に貼られる証紙です。白い四角に青で「博多」の印が入っています。
金丸証紙
絹を50%以上使用している小物類に貼り付けられる証紙です。全体的に金色で丸い形をしています。印鑑ケースやネクタイ、バッグ等が代表的なアイテムです。
丸青証紙
絹の使用率が50%以下の小物類に貼り付けられる証紙です。白地の丸に青い字で「博多織」等の文字情報が入っています。比較的リーズナブルな製品が多いです。
着尺・袴地の証紙
着物を一枚作るための反物(着尺)または袴(はかま)を作るための袴地に貼り付けられる証紙です。白地に金で文字が描かれていますが、金証紙とは異なり正方形をしています。
伝統工芸品証紙
伝統的技法に則って作られた製品のみに貼り付けられる証紙です。イラスト入りの「博多織」の証紙に加えて、「経済産業大臣指定伝統激工芸品」である証の「伝統マーク」が入っています。
手織り製品
手織りで作られた製品のみに貼り付けられる証紙です。手機で博多織を織る女性の姿が描かれています。現在生産される博多織のほとんどは機械織りなので、手織り製品の博多献上織は非常に希少な存在となっています。
人間国宝が作る献上博多織がある?
博多献上織の職人としては、1971年に小川善三郎が重要無形文化財保持者(いわゆる人間国宝)として初めての認定を受けています。またその息子である小川規三郎氏も、2003年に重要無形文化財保持者となりました。
この二氏が制作する手織りの献上博多織は、博多織の中でも最高級品と言えるでしょう。お二人の作品には重要無形文化財という文字や作家名が織り込んであるため、多少知識がある人ならすぐに見つけることができます。
筬打ちに生きる 小川善三郎・献上博多織
— お役立ち@着物買取サポート (@seo_sougo) January 29, 2020
博多織・献上博多織を高く売るには?
「家に使っていない博多織の帯がある」「祖父の博多織が何枚も箪笥に眠っている」…博多帯はかなりポピュラーな製品なので「博多織を売りたい」という方は多いのではないでしょうか?
少しでも博多織・献上博多織を高く売るために、以下のようなポイントをチェックしておきましょう。
証紙と作家名・機屋名をチェックする
博多織は上記でご紹介したとおり、かなりランクの幅が広い製品です。手織り製品や作家製品、また老舗の機屋が制作した伝統工芸品の博多織・献上博多織であれば、かなり高額での買取も期待できます。
反対に絹の使用率が低い製品・機械織りの大量生産品等の場合には、買取価格が安めになってしまうこともあります。製品購入時の証紙が残されていないか、また製品に機屋や作家名が入っていないかをチェックしてみましょう。
メンズ製品が買取OKかどうか確認を!
一般的なリサイクルショップや総合買取業者の場合、男性向けの博多織の帯(角帯)をそもそも買い取りしないことがあります。近隣地域での男性向け和装品の需要が低い場合などには「買取NG」としているのです。
全国対応・海外対応等の広い流通経路を持つ「着物専門中古買取業者」であれば男性向け製品もほぼ買い取ってもらえますが、事前に確認を取っておいた方が良いでしょう。
おわりに
博多織・献上博多織の特徴や見分け方はいかがだったでしょうか?ちなみに着物好きの中には着物に合わせて帯を誂える方も多いため、「着物・帯」をセットで売った方が査定額が上がる場合もあります。
「献上博多織の帯を手放す」という時には、その帯によく合わせていた着物がなかったか、探しておくのも手ですよ。