着物産地

伊那紬

伊那紬の特徴や歴史・買取に出す時の注意点を徹底解説!

紬(つむぎ)とは、紬糸という太く節の多い糸を使った平織りの布のこと。大島紬(おおしまつむぎ)や結城紬(ゆうきつむぎ)等、日本には様々な伝統工芸品の紬があります。そんな紬のひとつが「伊那紬(いなつむぎ)」です。現在では一つの機屋のみが生産する非常に希少な紬織物となっており、その価値は年々上昇しています。

今回はこの「伊那紬」について、その歴史や特徴、また伊那紬の着物を買取業者に売る場合の注意点等をご紹介していきましょう。

伊那紬(いなつむぎ)とは?

伊那紬とは、信州地方で作られる「信州紬(しんしゅうつむぎ)」の一種です。長野県南部の伊那谷(いなだに)地方で制作される紬織物のことを指します。

信州紬には、この伊那紬の他に、松本紬(まつもとつむぎ)、飯田紬(いいだつむぎ)、上田紬(うえだつむぎ)等があります。信州紬は1975年には経済産業省から伝統工芸品の指定を受け、工芸品としての制作には指定条件も設けられました。自治体(県や村)からだけでなく国からの伝統工芸指定を受けているという点からも、その貴重さがわかりますね。

中でも生糸・玉糸・真綿から手紡ぎされた紬糸を使用する「伊那紬」は、その美しい染めの色や風合い、希少性によって注目されています。

伊那紬の歴史

伊那紬が制作される信濃(現在の長野県)の伊那谷は、中央アルプスと南アルプスに挟まれた山深い土地です。天竜川の上流という美しい水に恵まれた土地でもあったことから、伊那谷等の地域では、戦国時代の終わり頃から各藩がこぞって養蚕業を奨励するようになりました。

江戸時代(18世紀頃)には、「信州は絹の国」と呼ばれるほど養蚕が盛んとなっていたことがわかっています。当時、養蚕で作られた繭は多くがそのまま京都・尾張等に生糸の原料として出荷されていきました。しかし蚕(かいこ)が繭を食い破ってしまうと、その繭は出荷ができません。

このようないわゆる「くず繭(くずまゆ)」を使い、主に農家の副業として織物が作られるようになったのが、「伊那紬」の始まりであると言われています。

素朴な絹の風合いと草木染めの技術の向上によって、伊那紬の美しさは徐々に「産業」として注目されるようになりました。伝統工芸品認定を受けた1970年代には、伊那谷の機屋数も120軒近くに増加する等、昭和の時代には盛んに紬が作られていたのです。

しかし現在では、残念ながら伊那紬を作る機屋の数は激減。久保田織染工業(株)の一社に制作を頼る状況となっています。

久保田織染工業株式会社出典:久保田織染工業株式会社

名称久保田織染工業株式会社
住所駒ヶ根市東町2-29
連絡先0265-83-2202

伊那紬の作り方

希少な紬である伊那紬はどのように作られるのでしょうか。その過程をカンタンにまとめてみました。

1)糸繰り:「かせ」と呼ばれる状態の糸を巻き取ります。

2)合糸:伊那紬では、経糸(たていと)には生糸・玉糸・真綿を使用した手紡ぎ糸、緯糸(よこいと)には玉糸・真綿の手紡ぎ糸を使用します。それぞれの使用用途に合わせて紡がれた糸を撚り合わせていきます。

3)揚げ返し:あげかえし。ボビンに巻かれた撚糸を綛の形に戻します。

4)精錬(せいれん):糸についている余分なタンパク質を取り除きます。

5)染色:地元・信州で取れる原木の樹皮等を使い、糸を染めていきます。染色をていねいに繰り返して行うことで、深みのある色合いが生まれます。

6)整経:整経機に経糸(たていと)を巻き取り、次に経糸(たていと)を機(はた)にかけていきます。1,000本以上の経糸をすべて手作業で扱う、手間と繊細さが必要とされる工程です。

7)手織り:高機(たかはた)を使用して手織りしていきます。信州紬では緯糸の打ち込みに手投杼を用いることが定められています。織りの完成までには熟練者でも1ヶ月以上かかるのだとか。柄行の難しい物などの場合には、数ヶ月以上がかかります。

伊那紬の特徴

草木染めによる柔らかな色合い

伊那紬の染色に用いられるのは、信州原産の原木の樹皮等の天然植物染料です。山桜(ヤマザクラ)や白樺(シラカバ)、林檎(リンゴ)、くるみ、カラマツ、矢車玉(榛の木の実のこと)等の樹皮を煮出して行う染色は、大変に手がかかるもの。また1キロの糸を染めるために使用する原材料は1キロ以上が必要となる等、染色に対する染材の費用がかかることでも知られています。

しかし手間がかかる天然自然の染色による色合いは、化学染料とは違い非常に繊細で柔らか。複数の色を用いた縞模様や格子模様でも色同士がケンカをせず、優しく温かい調和が取れています。

しなやかで丈夫な織物

伊那紬は経糸(たていと)と緯糸(よこいと)にそれぞれ違う糸を用います。玉繭から取れた玉糸、そして天蚕糸等の様々な糸を用いた織物は、その表情も豊か。そして感触がやわらかくでしなやか、それでいて丈夫なのが特徴です。

小物類も人気

丈夫でしなやかな伊那紬は、着物(反物)だけでなく、帯や草履(ぞうり)等の和装小物類を作るのにも用いられます。また近年では、スカーフ・ネクタイ等の洋装用小物や、財布・バッグ・名刺入れといったグッズ類も展開されるようになりました。

伊那紬を買取業者に売りに出す場合の注意点

希少価値のわかる買取業者を選ぼう

現代では大島紬や結城紬に負けない程の希少価値となっている「伊那紬」。しかし着物に詳しくないリサイクルショップや質屋等だと、この紬の価値が正確に判断されない可能性が考えられます。

そもそも紬(つむぎ)は、留袖や訪問着のように礼服としては着ることができない着物です。「おしゃれ着」として着物上級者が好むタイプの着物なので、一般的な「着物」を求めるリサイクルショップ等だと、紬は二束三文で買い叩かれる恐れがあります。

伊那紬の希少性や伝統工芸品としての価値を判断できる、着物を専門に扱う買取業者を選ぶことをおすすめします。

小物買取も対応可能な業者が理想的

「伊那紬の和装バッグや草履等の小物類も売りたい!」という場合には、着物買取業者の「買取対応範囲」をよく確認しましょう。着物・帯までは買取対応をしている業者でも、小物類は買取NGという場合があります。

また草履については、「未使用品なら買取OK」といった条件があることも。買取NG品を混ぜると一箱全体が買取NGになる宅配買取業者もあるので、事前によくチェックした方が安心です。

セルフケアには要注意

天然素材で染色されているのが大きな魅力の「伊那紬」。しかし草木染めである分、保管状態によっては褪色(いろあせ)や変色といったトラブルが起きやすい傾向があります。また絹製品ですので、虫害(虫食い)にも注意が必要です。

「買取に出すのがしばらく先になりそう…」という場合には、保管中の湿度の調整、適度な虫干しといったケアはしっかり行うようにしましょう。

また、すでに汚れがある場合、「美品の方が高額買取になるから」とセルフケアでシミ抜きや汚れ取りをするのは厳禁です。天然染色製品の場合、誤ったケアによってはげしい色落ちや変色、色抜け等を起こす恐れがあります。万一セルフケアの失敗による色抜け等が起きてしまうと、買取できないことがありますのでご注意ください。

おわりに

伝統工芸品・伊那紬についての歴史や特徴はいかがだったでしょうか。伊那紬は製造元が現在一社にまで激減しているため、その希少性は今後もさらに高まると予測されています。ただ、お着物の取扱に慣れている方でないと美しく保存・保管をするのが難しい工芸品であるのも事実です。

「今後着る予定が無さそう」という場合には、着物の希少価値がわかる業者に早めに売りに出すというのも手ではないでしょうか。

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