タバコや食事の臭い等、着物や長襦袢には様々な匂いが付いてしまいがち。「ファブリーズを着物に吹きかけて、サッと消臭したい!」と考えている人は多いのではないでしょうか。ファブリーズやリセッシュ等の消臭スプレーは今やどの家庭にも一本はあるアイテムですし、着物に使えたら便利ですよね。
でもこれらの消臭スプレー、実は着物には使えないことがほとんどだって知っていましたか?ここではスプレー型のファブリーズやリセッシュが着物に使えない理由や、スプレー式の消臭剤に頼らない着物の匂い消し対策について解説していきます。
この記事の目次
ファブリーズは着物の「シミ」の原因?
ここでいう「消臭スプレー」とは、ファブリーズやリセッシュ等の製品のうち「布用」のものを指します。布用のファブリーズは、ソファやラグ等のインテリア製品のほか、最近では衣類の除菌等ができるものも登場していますね。ところがどの製品の使用説明書・注意書きでも「和装品(着物等)には使えない」とハッキリと書いてあります。なぜ布用ファブリーズは着物等の和装品には使えないのでしょうか。
シルクやウール着物はファブリーズで「水シミ」に?
「ファブリーズ」や「リセッシュ」等の布用消臭スプレーは、気体(ガス)ではなく液体型です。匂いを取るための成分や除菌剤等を水に溶かして作ってあります。消臭や除菌をするための有効成分は、水を媒介して繊維に染み込み、はじめて消臭効果が発揮されるようになっているわけです。
そのためファブリーズ等の消臭製品は、布に対して一定以上の量をスプレーし、繊維をしっかりと濡らすか湿らせる必要があります。ところがこの「水分」が、着物等の和装品にとっては大敵なのです。
着物の素材で多いのは「正絹(シルク)」や「ウール」。これらの素材はいずれも水濡れに弱く、濡れることで縮んでしまいやすい素材です。特にシルクは縮みやすく、濡れたままで放置すると10%近くも収縮してしまうことがあります。
またスプレー等で水滴が付いた場合、その部分の繊維だけが縮んで「シミ」のように見える「ウォータースポット」ができてしまうことも。一部分だけが縮んで型崩れを起こしたり、シミだらけになってしまう恐れがあるというわけですね。
ちなみに留袖や振袖等の礼装用着物のほとんどは、「正絹(シルク)」で作られています。「着物の素材はわからないけれど、フォーマル用の着物」という場合、ファブリーズを使うのは絶対に避けましょう。
ポリエステル着物にはファブリーズは使える?
では比較的水に強いポリエステル着物や長襦袢等にはファブリーズが使えるか?というと、こちらもあまりおすすめはできません。
ファブリーズには水以外に、以下のような成分が含まれています。
【配合成分例】
・トウモロコシ由来消臭成分
・除菌成分
・水溶性凝集成分(高分子ポリマー)
・香料 等
これらは一般的な洋服の染料や繊維に対しては使用しても問題の無い成分です。しかし着物(和装品)の場合、天然染料等のデリケートな染料が使用されていることがあります。
ファブリーズに含まれる成分が除菌成分・消臭成分等と化学反応を起こすと、「変色」「褪色」といった重度のトラブルが起きる可能性もあるのです。
万一の変色が起きたら、専門店でも変色部は元に戻せません。日常生活では気軽に使っている「ファブリーズ」や「リセッシュ」ですが、着物に使うにはとてもリスクの高い消臭方法と言えます。
「置型ファブリーズ」なら着物の消臭対策に使える!
スプレー式のファブリーズが着物には使えないとなると、「着物に付いたタバコや食事の臭いはどうやって取ったらいいんだろう…?」と悩んでしまいますよね。実はこんな時に活躍してくれるのが、「お部屋用ファブリーズ」等の置型タイプの消臭剤なのです。
置型のファブリーズが着物に使える理由とは?
着物や長襦袢は前述のとおり、非常にデリケートな素材・染料で作られています。そのため直接科学成分をスプレーしたり、染み込ませたりする行為はできるだけ避けたいところ。そこで直接的には成分に触れさせない「置型タイプ」が着目されました。
衣類や靴等に付いている匂いの元は、ニオイの分子です。置型タイプの消臭剤は、このニオイの分子をゼリー型等のキャッチャーで吸い込むように捕まえて、ゼリーの中の消臭成分で中和していきます。ニオイ分子はゼリーの中で中和されてしまうため、もう一度衣類にニオイが戻ることはありません。
ビニール袋等で密閉をした状態でしばらく放置しておくと、陰干し等でも取れにくい衣類のニオイを目立たなくしてくれるのです。
置型ファブリーズでの着物の消臭方法
2)大きなゴミ袋等のビニール袋に着物を入れます。着物がシワにならないように十分に気をつけてください。
3)着物を入れた袋を、平らで直射日光が当たらない場所に置きます。
4)袋の隅(着物に直接触れない場所)に、置型の消臭剤を置きます。
5)紐やクリップ・ガムテープ等で、袋を密閉します。
6)1日~3日程度、放置します。
7)袋を開けて、着物の臭いの状態を確認します。
8)臭いが残っている場合、さらに3日程度放置します。
9)着物の臭いが取れたら、袋から出して着物を十分に陰干しします。
置型消臭剤を使う場合の注意点
カビの臭いは消臭できません
着物の臭いが「カビ臭さ」である場合、ビニール袋を使う方法はNGです。密閉された空間の中でカビ菌がさらに増えて、臭いがキツくなる可能性があります。軽いカビ臭さであれば、屋外で陰干しをしてニオイを飛ばしましょう。
カビ臭さが酷い場合、カビ菌は家では除菌できないので、早めに着物専門のクリーニング店で「カビ取り」をすることをおすすめします。
消臭剤はかならず「無香タイプ」を
着物と一緒に袋に入れる消臭剤は、必ず「無香タイプ」のものを選びましょう。香り付きのタイプはNGです。長時間一緒に袋に入れておくと、着物の繊維に香料の香りが移って取れなくなってしまいます。
暑くなる場所での使用はNG!
直射日光の当たる場所や、気温が35℃~40℃近くになる場所には着物と消臭剤を入れた袋を置くのは厳禁です。高温の場所にファブリーズ等の消臭剤を置いておくと製品が変質しやすくなるほか、着物の繊維が蒸れやすくなります。
消臭後にはかならず陰干しを
着物の臭いが取れた後には、必ず直射日光の当たらない場所で半日~1日以上は陰干しをしましょう。すぐに着物をしまうと、ビニール袋に入っていた時の湿気が着物に残り、カビ等の発生の原因になります。
消臭剤と触れさせない
置型消臭剤と着物が絶対に触れることが無いように、消臭剤の置き場所には十分に気をつけましょう。ゼリー成分等が着物の繊維と接触すると、着物の変色・変質等が起こる可能性があります。
長期間の放置は禁止
「着物の臭いが取れないから」といって、2週間も3週間も着物をビニール袋に入れて置きっぱなしにするのはやめましょう。着物の繊維がムレてカビ菌が発生する恐れがある他、虫害等も招きやすくなります。一週間置いてもニオイに変化が無い場合には、着物専門のクリーニング店に臭い取りを依頼することをおすすめします。
おわりに
着物にファブリーズが使えない理由や、置型を使う消臭対策はいかがでしたか?上でも解説しましたが、万一スプレータイプのファブリーズで着物を変色させてしまうと、変色部を元に戻すことはできなくなります。変色した部分を目立たなくするには、専門の職人さんにお願いをして、別途色掛けをしたり、絵を足すといった方法が必要。いずれも手間がかかるリカバーの方法ですから、料金も高くなりがちです。
「気軽だから」と消臭スプレーに頼らず、どうしても取れない着物の臭いは早めに着物クリーニング専門店に相談しましょう。