お手入れハウツー

着物の袖口

着物の袖口汚れを落としたい!原因別の対処法

    着物の袖口(そでぐち)は、汚れが付いていると目立ちやすい箇所のひとつです。洋服に比べて袖口が長く広がっているため、内側の汚れは少し手を上げただけでも見えてしまうことがあります。「この程度の汚れなら平気?」と後回しにせずに、着物の袖口に汚れがついたら早めにケアをしてあげることが大切です。

    今回は着物の袖口汚れについて、皮脂汚れや食べ物シミ等、原因別の適切な対処法を解説していきます。

    1.袖口の皮脂汚れ・化粧品汚れはベンジンでケア

    袖口の裏側に一番付きやすいのは、手首の皮脂による汚れです。着物の下には長襦袢を着ますが、アンダーウエアーである長襦袢の袖は着物よりも短めに作られています。そのため長襦袢から出た「手首」の部分は、着物の裏側に直接こすりつけられている状態なのです。

    また女性の場合、袖口の表側に意外と付きやすいのは化粧品の汚れ。ふと顔周りを触った時やお化粧直しの際などに、ファンデーションや口紅等をちょっと付けてしまった…といったケースも多いようです。

    皮脂汚れがたまる前の予防ケアや、化粧品汚れのケアには、これら油溶性汚れを溶解できる「油系の溶剤」を使うのが一番!自宅での着物のセルフクリーニングの場合、薬局やドラッグストア等で手に入れやすいベンジン(揮発油)を使用します。

    ベンジンを使った着物の袖口汚れの落とし方

    【準備するもの】
    ・ベンジン(クリーニング・シミ抜き専用のもの。カイロ用はNG)
    ・タオル(大判で色が薄く、使用後に捨てても良いもの)
    ・ガーゼ(薄いタオルでも代用可能) 数枚

    1)袖口の汚れ落としを行う前に、目立たない場所で色落ちテストを行います。
    2)大判のタオルを敷いて、着物の袖口を汚れが目立つ方を表にして広げます。
    3)ガーゼにベンジンを染み込ませ、汚れが気になる部分をトントンと軽く叩きます。
    4)汚れが移ったらガーゼやタオルの位置を変えて、常にキレイな部分で着物を叩くようにします。
    5)着物の袖口汚れが目立たなくなったら、別のガーゼに多めにベンジンを含ませます。
    6)汚れ取りをした範囲よりも広くベンジンを含ませて、濡れた部分の境界がよくわからなくなるようにぼかしていきます。
    7)十分にぼかしたら、着物専用のハンガーに着物をかけてよく乾かします。

    ※素材や染色によっては、ベンジンを使うと色落ち・変色が起きます。かならず裏面等の目立たない部分で事前のテストを行いましょう。
    ※汚れが落ちない時に、強くこすったり叩いたりするのはNGです。毛羽立ち・色ハゲの原因になります。
    ※ベンジンで濡れた箇所と乾いている箇所の境界をしっかりボカさないと「輪ジミ」の原因になります。一度輪ジミができると自宅ではカバーしにくいので、十分に注意しましょう。
    ※作業中はかならず換気をしましょう。赤ちゃんやペット・病人・高齢者の居る部屋では作業を避けてください。
    ※ベンジンでの作業中は火気厳禁です。

    2.飲み物のハネや醤油シミは中性洗剤でケア

    袖口汚れで意外と多いのが「飲み物系のシミ」です。紅茶やコーヒーをこぼしてしまったり、食事の途中で日本酒ををハネさせてしまった…といったケースも。これらの飲み物系シミはほとんどが水に溶ける「水溶性」なので、ベンジンでは落とすことができません。

    またお食事のシミでも、醤油等のシミは油分をほぼ含まないので、飲み物汚れと同じく「水溶性シミ」の扱いになります。これらの原因で起こった袖口汚れには、素材に干渉しにくい中性洗剤を使うのがおすすめです。

    中性洗剤を使った着物の袖口汚れの落とし方

    【準備するもの】
    ・液体型中性洗剤(エマール等のおしゃれ着洗い用洗剤でOK)
    ・バスタオル(白か薄い色のもの)
    ・バケツ
    ・薄手のタオル3~4枚
    ・着物用ハンガー

    1)バスタオルを敷いて、着物の袖口を汚れが目立つ部分を表にして広げます。
    2)バケツにぬるま湯を入れて、液体型中性洗剤を適量入れ、薄めておきます。
    3)タオルをバケツに入れて濡らしてから、硬く絞ります。
    4)絞ったタオルで着物の袖口の汚れが気になる部分をトントンと軽く叩きます。
    5)常にタオルのキレイな面が着物に触れるように、タオルを動かしていきます。
    6)汚れが取れたら、ぬるま湯で濡らして硬く絞った別のタオルで同じように着物を叩きます。
    7)最後に乾いたタオルでもう一度着物をよく叩いて水分を取ります。
    8)着物専用のハンガーにかけて、直射日光のあたらない場所で一日以上干します。

    ※中性洗剤でも変色が起こる可能性はあります。必ず目立たない部分で変色・色落ちテストを事前に行いましょう。
    ※着物を強く叩いたりこすったりするのはやめましょう。毛羽立ち・色ハゲの原因になります。
    ※箔加工・刺繍加工等の特殊加工がある着物や浴衣にはこの方法は使えません。
    ※正絹(シルク)・ウール等の縮みやすい素材にはこの方法は使えません。水シミ・輪ジミ等ができる原因になります。

    3.食べ物汚れはベンジン?洗剤?

    着物の袖口についた汚れが料理のハネの場合、汚れのとり方がベンジンで良いのか、中性洗剤で良いのか迷ってしまう人も多いのではないでしょうか。食べ物シミの場合、分類の仕方は「油分・皮脂の多さ」で決まります。

    【例】
    ・マヨネーズ・ドレッシング等の汚れ → 脂分が多い → ベンジンでケア
    ・みそ汁の汚れ→脂分はほとんど無い → 中性洗剤でケア
    ・カフェオレの汚れ → 乳脂肪分が多いが水性汚れでもある → ベンジン+中性洗剤の両方でケア

    シミの原因が「醤油ベースのステーキソース」「トマトソースの煮込み」といった場合には、水溶性の汚れと油溶性の汚れの両方が混じっていることになります。この場合にはベンジンで油分汚れを分解して、さらに残った水溶性汚れを中性洗剤で落とすケアが必要です。

    「料理のシミなのはわかるけど、何の料理で付いた汚れかはわからない」「料理から脂分の多さが判定しにくい」という場合、袖口のシミは「5.」で解説する原因不明の汚れに分類されます。

    4.水シミ・雨シミは家では落とせない?

    着物の袖口に、食事のハネでもなければ飲み物でも無い不思議なシミがある…素材が正絹の着物の場合、これは水シミ・雨シミ(ウォータースポット)である可能性が高いです。

    正絹(シルク)はちょっとした水分でも縮みやすい素材なので、水滴等で一部が濡れるとその部分だけが収縮し、色が変わったように見えてしまいます。実際には汚れは付いていないのですが、見た目には「シミ」に見えるというわけです。また大量に雨・雪、その他の水で濡れた場合、着物の染料が流れ出して偏り、輪ジミになることもあります。

    このような「水シミ」「雨シミ」「輪ジミ」の場合、布の収縮や染料の状態の問題なので、自分でのケアでは着物を元に戻すことが難しいです。着物を専門に扱うクリーニング店や悉皆屋(しっかいや)に早めに相談することをおすすめします。

    5.その他に自分では取れない着物の袖口汚れ

    雨シミ・水シミ以外には、以下のような着物の袖口汚れは自宅での対処ができません。

    ・汚れの原因が不明の場合:適切ではない対処をすると、シミがかえって取れなくなる可能性があります。
     
    ・着物袖口の皮脂汚れが黒ずんでいる場合:シミの酸化が始まり、ガンコなシミになっています。自宅ケアでは落とせず、無理にケアをすると着物を傷めてしまいます。
     
    ・着物袖口の汚れがオレンジ~茶色いシミになっている場合:着物の黄変(酸化による変色)が始まっています。漂白や染色補正等、専門家による本格的な対処が必要です。
     
    ・着物の袖口汚れが500円玉より大きい場合:大きいシミになるほど自宅では取りにくいです。無理に取ろうとすると、繊維の毛羽立ち等を起こしてしまう可能性があります。
     
    ・シミの原因が赤ワインの場合:色素がとても多いシミなので、自宅ではほぼ取りきれません。色素が残ると変色して、とてもガンコなシミになります。早めにプロにシミ抜きしてもらった方が良いです。

    着物に付いてしまった袖口汚れが上記のような場合には、自分で対処をするのはNG。できるだけ早く着物クリーニング専門店に着物を持ち込んで、シミ抜き等の相談をしましょう。

    おわりに

    着物の袖口汚れの落とし方・対処法はいかがでしたか?上でも解説したとおり、着物の袖口の裏側には意外と多くの皮脂汚れが溜まっています。着物をクリーニングせずに長期保管すると、次に出した時には袖口の裏が黒ずんでしまっていた…なんてことも。シーズンの終わりや数回着た着物は「着物丸洗い」でクリーニングをして、袖口汚れ等が目立たないうちに「シミの元」を取り去る習慣をつけておくと安心ですよ。

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