2000年代以降、全国で注目されるようになっている沖縄文化。「泡盛」や「さーたーあんだぎー」等の飲食物やゆっくりと踊る「カチャーシー」等、様々な文化が知られて人気となっています。「久米島紬(くめじまつむぎ)」も、そんな沖縄で作られる人気の織物・着物です。
手作業で作られる久米島紬は、その貴重さでも知られています。着物の中古買取業界でも、比較的高額で買取される着物です。ここでは久米島紬の特徴や歴史について、また着ない久米島紬を手放す場合の注意点等についても解説していきます。
この記事の目次
久米島紬の概要
「久米島紬」はその名のとおり、沖縄の久米島で作られる織物・着物です。久米島は沖縄本島から南西に向かって100キロ程度離れた場所にあり、1983年には島の全体が県立自然公園に指定されるなど、豊かで美しい自然があることで知られています。
久米島紬はそのような島の風土を反映し、素朴かつシンプルでありながら、味わいのある絣模様の連なりが魅力となっています。泥染めによる渋い黒みを帯びた地色のものが有名ですが、必ずしも黒地とは限らず、黄金色や薄鼠等、柔らかな色合いの製品もあります。
糸(絣糸)の一部は現在も久米島で生産(養蚕や手紡ぎ)が続けられている他、染料は久米島原産のサルトリイバラ等の植物を使用する等、原料まで地のものが多い点も特徴です。
2004年にはその製法が重要無形文化財に指定された他、技術保存と技術者の養成を行う久米島紬保持団体が重文保持団体としての認定も受けています。
久米島紬の歴史
久米島紬の歴史は古く、室町時代頃にまで遡ると言われています。当時琉球国(りゅうきゅうこく)と呼ばれていた沖縄は中国等の大陸との輸入・輸出の中継地であり、様々な原料や技術が伝えられていました。
そんな中で14世紀頃には堂の比屋(どうのひや)が当時の中国である明(みん)に渡り、養蚕の技術を学んで持ち帰りました。紬糸の生産ができるようになったこと--これが久米島の起源だと考えられています。
久米島は16世紀には琉球王国の支配下に入り、さらに17世紀には薩摩藩に侵攻されます。その間、税金として収めていたのが「紬」でした。
「より大量の紬を生産し、税金を収められるように」と1619年には越前の坂本普基が呼ばれ、養蚕・真綿の最新技術を教えます。さらに薩摩の友寄影友によって染色や織物の洗練された技術も伝えられ、久米島の紬の生産力は大きく発展しました。薩摩から江戸へ、そして全国へと送られた久米島の紬は「琉球紬(りゅうきゅう・つむぎ」と呼ばれ、その名を知られるようになっていきます。
明治に入りようやく紬による納税制度が終わると、久米島の人々は自らの糧を得る仕事として自由に紬の生産に取り組むようになりました。明治から大正にかけては生産量が爆発的に上昇。最盛期を迎えたのです。
ただ、その後の世界恐慌、そして第一次世界大戦の余波を受けて生産量は激減し、さらに第二次世界大戦によって久米島紬の生産は一時的には途絶えたも同然の状態となります。
しかし戦後には久米島紬の再興に力が入れられ、技術の伝授・普及のための学校も開設。昭和50年には通産大臣による伝統工芸品指定も受け、さらに52年の無形文化財指定を受けるほどの復興を遂げたのです。
久米島紬の特徴
久米島紬の代表的な特徴について知っておきましょう。
完全手作業・一人による生産工程
久米島紬を作るには、織物の元である絣糸(かすりいと)の糸を紬、図案を生み出し、糊貼り、模様付けのための糸括りを行い、さらに染色をしてから機織りをするという様々な工程が必要となります。
久米島紬はこれらの工程をすべて手作業で行っています。現代では指定伝統工芸品でも糸括等を機械で行っているものが珍しく無い中で、認定されている久米島紬はれっきとした「手作りの品」なのです。
さらに久米島紬では分業制が取られません。織物の完成までの工程は、すべて一人の職人によって行われます。職人一人ひとりの手業の違いが観られる点も、久米島紬の特徴と言えるでしょう。
草木染+泥染めの天然染色
久米島紬では、島で「グール」と呼ばれるサルトリイバラの他、「テチカ(シャリンバイ)」や「クルボ(ホルトノキ)」等の天然植物による草木染が行われます。
色によってはさらにこれに泥媒体(泥染め)が行われ、深みのある風合いが生まれます。
黒~濃茶 サルトリイバラ+シャリンバイで染めた後に泥染め
黄・黄金 ホルトノキ+楊梅で草木染め後にミョウバン
茶・赤茶 サルトリイバラ+シャリンバイによる草木染にミョウバン
鶯・薄緑 ホルトノキ+楊梅で草木染後に泥染め
薄鼠・鼠 オオハマボウでの草木染+豆汁による媒染
草木染での染色は、染色を1日に6回~7回ほど行うものを2週間も継続します。泥染めが必要な場合、この後に更に泥染め・草木染を繰り返し、深い色味を生み出すのです。
時間を経るほどに生まれる光沢感
久米島紬はその素朴な風合いから、新品の状態だと一見して綿の織物のように見えることもあります。しかし洗いを繰り返したり何度も着たりと時間を経ていくことで、天然の染料の深みが増し、独特の光沢感が生まれるのが特徴です。
特に黒に見えるほどの濃い焦げ茶の地色の光沢感は、着物好きの人たちからも好まれています。
久米島紬を売る場合の注意点
ご紹介したように、様々な魅力と伝統を持つ久米島絣。しかし絣の着物はフォーマルとしては着られないため、着物に仕立てたもののなかなか着る機会が無く「久留米絣が箪笥で眠ったままになっている」という方も少なくないようです。
せっかくの貴重な品、眠らせたままにしておくよりも価値のわかる人に買ってもらい、着物を愉しんで貰いたい…と考えている人も多いのではないでしょうか。しかし久米島紬を手放す場合には、以下のような点に注意が必要です。
鑑定士の在籍する着物買取業者を選ぶ
着物を専門に扱わない一般的な中古買取業者では、フォーマルシーンに使いやすい着物(留袖や訪問着等)は積極的に買取するのに対し、カジュアルな着物は買取しなかったり、安く買われてしまいがちです。
久米島紬は高級着物なのですが、着物の格としてはフォーマル向けではありません。着物に詳しくない業者だと安値で買われる恐れがあります。着物鑑定士等、着物・伝統工芸品への専門知識を持ったスタッフが在籍する買取店や買取業者を選ぶようにしましょう。
久米島紬の証紙は重要!
本物の久米島紬には、「本場久米島紬」と銘が入り、生産者の名前が入れられた証紙が付いています。これが「本物の証明書」になるわけです。
久米島紬は昔ながらの伝統的な絣模様を取り入れていますから、専門知識がある人ならば証紙なしでも本物は見分けられることでしょう。しかし買取の際にはやはり証紙アリの方が高く買い取ってもらえます。購入時の証紙が無いか、探しておくことをおすすめします。
おわりに
久米島紬の特徴や歴史はいかがでしたか?近年では「久米島紬=黒」というイメージの先行によって、アンティークの鼠色・うぐいす色等の久米島紬にお気づきにならない方も多いようです。ご自宅に眠っている昔の着物やフリーマーケットで手に入れた着物にに、もしかしたら久米島紬が…といったこともあるかもしれませんね。