着物産地

東京・伊豆諸島の「八丈島」

黄八丈の特徴や歴史&売りたい時の注意点

日本には様々な伝統工芸品着物がありますが、「急に染め物の名前を言われてもわからない、見分けがつかない」という人も多いもの。そんな中、実物を見せると「これ、どこかで見たことあるかも?」と言われることが多いのが「黄八丈(きはちじょう)」です。実はテレビドラマの「時代劇」でもよく目にする着物なんですよ。

また経産省指定の伝統工芸品である「本場黄八丈」は、現代では希少価値のある着物として高値で取引がされています。今回は「黄八丈」について、その特徴や歴史を解説していきましょう。また黄八丈を手放す場合の注意点についても紹介しますので、「家に黄八丈らしき着物があるけれど着なくて困っている」という人も参考にしてみてくださいね。

黄八丈とはどんな着物?

本場黄八丈出典:本場黄八丈 東京都産業労働局

黄八丈(きはちじょう)とは、東京・伊豆諸島の「八丈島」を中心に製作される伝統工芸品の着物です。「なるほど、八丈島で作ったから八丈という名前がついているのか」と思われた方も多いことでしょう。ところが実際には、これは逆ではないかと言われています。

丈(じょう)は古来から日本で使われてきた長さの単位です。1丈は約3.0303メートルとなります。そして絹織物の単位である1疋(2反)の長さは、ちょうど八丈(24メートル強)。つまり絹織物をよく織る(八丈をよく作る島)であるから「八丈島」と名付けられた--八丈島の名前の由来には、そんな説もあるほどなのです。黄八丈と八丈島に深いかかわりがあることがよくわかりますね。

指定された生産方法で作られる八丈島産の黄八丈は、「本場黄八丈(ほんばきはちじょう)]として東京の伝統工芸品であるという認定を受けています。

黄八丈はその名前に「黄色」が入るとおり、黄色、鳶色(とびいろ・赤っぽい茶色のこと)、黒の三色の色を使って織られます。柄は縞柄(ストライプ)、または格子模様(チェック)。縞の太さ・色合いの使い方などによって雰囲気が大きく変わる着物です。

黄八丈の歴史

黄八丈の礎となる八丈島の絹織物の歴史は非常に古く、平安時代にはすでに紡績が始まっていたのではないかと考えられています。文献では室町時代の権力者である北条家の歴代当主に対して八丈島から絹織物が貢物として渡されていたという記録が残っており、その後も鎌倉幕府・江戸幕府に対して脈々と「貢物」として黄八丈が贈られてきました。

海を越えてやってきた絹織物は、貴重かつ希少なものとして中央権力者達に着られていたというわけです。実際、「犬公方」として知られる徳川五大将軍綱吉公は黄八丈を殊更好んでおり、別注品をわざわざ頼んだり、気に入った部下に対して黄八丈をプレゼントしていたという記録も残されています。

江戸時代前期までは上記のように「特権階級向け」だった黄八丈。しかし後の老中・田沼意次の計らいによって八丈島の物資が江戸各地に流れるようなったことで、庶民も黄八丈を手に入れられるようになりました。そして「人形浄瑠璃」や「歌舞伎」といった演目の衣装に使われるようになり--これが黄八丈の一大ブームの火付け役となります。

大人気演目「梅雨小袖昔八丈」。この作品のヒットによって、江戸の女性達はみな、登場人物の白子屋娘お熊の着る「黄八丈」に憧れました。今でいえば、人気モデルやタレントが着る服がトレンドになるようなものかもしれませんね。いずれにしても、江戸後期には江戸の町中で娘さん達が黄八丈を着る姿があちこちで見られるようになったのです。

この文化を受け継いでいるのが、現代の時代劇と言えます。町娘が黄色地の格子縞の着物を着ている姿、覚えがありませんか?あれは「黄八丈」のつもりで作られた衣装…というわけなんです。

このような紹介ですと「黄八丈=若い女性向けのチェックの着物」「カジュアルな着物」と思われそうですが、実際には黄八丈には格子だけでなく、縞柄等の様々な風合いの柄行があります。また色味についても黄一色ではなく、落ち着いた鳶色の色味が強い「鳶八丈」などもあるのです。若い女性のみならず、幅広い女性が着こなせる着物と言えるでしょう。

黄八丈の特徴

経産省指定の伝統工芸品「本場黄八丈」には、以下のような製法指定があります。

1)先染めの平織り又は綾織りとすること。
2)よこ糸の打ち込みには、手投げ杼(てなげひ)を用いる。
2)染色は、手作業による浸染とすること。染料は、コブナグサ、タブノキ又はシイを原料とする植物性染料、媒染剤は木炭又は泥土とすること。

この中でも特に大きな特徴としては、黄色・鳶色・黒の3色を作る染料のすべてが自然原料であるという点が挙げられるでしょう。

【黄色:コブナグサ】
黄色に使われるのは、イネ科の一年草のコブナグサです。別名を「八丈刈安」とも言います。伐採したコブナグサを十分に乾燥させ、煎じて作った汁に何度も漬けて染めることで、華やかな黄色が生まれます。

【鳶色:タブノキ】
赤みを帯びた茶色である「鳶色」を生み出すには、クスノキ科タブノキ属の常緑高木・タブノキ(別名イヌグス)の樹皮を煮出した汁を使います。八丈島では「タブノキ」ではなく、昔ながらの「マダミ」と呼ばれることが多いようです。

【黒:シイと泥土】
黒色の糸はブナ科クリ亜科シイ属であるシイノキ(椎木)の樹皮の煮汁を使って染めてから、さらに「沼漬け(ぬまづけ)」と呼ばれる泥土を使った泥染めをして、黒い色味を深くしていきます。

黄八丈を手放す場合の注意点

1.八丈島産の黄八丈ですか?

今回は八丈島産の本場黄八丈についてご紹介しましたが、黄八丈に分類される織物にはこの他、秋田県・北秋田市で作られる「秋田黄八丈」や、山形県米沢市で生産される「米沢八丈」等があります。

秋田黄八丈は八丈島産のものとは異なり、染料にハマナス等を使用しています。また鳶色が多用されやすく、八丈島のものに比べると少し渋い色味の反物・着物が多いのが特徴です。

また米沢八丈は本場黄八丈よりもツヤ感が強めな傾向があります。さわり心地もサラサラとしています。本場黄八丈がコシが強く丈夫さに優れているのに対し、米沢八丈はどちらかというと薄手で、デリケートな作りとなっているのも大きな違いです。

もちろんこれらの着物・反物も素晴らしい工芸品ではありますが、「八丈島の黄八丈です!」と言ってこの反物・着物を売りに出したら「ウソ・詐称」ということになってしまいます。「見分けがつかない…」と思ったら、ネットオークション・フリマアプリ等に自分の判断で出品するのは避けた方が良いです。

2.ウールの黄八丈ではありませんか?

昭和の頃には、八丈島産の黄八丈をイメージしたウールの「黄八丈柄の着物」がかなり多く生産されてきました。この手の「本場黄八丈風」とも言えるウールきものは、残念ながら中古着物買取業者ではほぼ買い取ってもらえないと思った方が良いでしょう。

ウールはシワになりにくく、日常着としては使いやすい着物。しかし虫害(虫喰い)が多いため、お手入れや保管にはなかなか苦労します。それに対して販売価格は絹の着物に比べてとても安いです。ウールの中古着物で安いものだと、中古販売価格で2~3,000円といったことも。買取業者側からしてみたら、「買取損」になってしまいやすい着物というわけなのです。

そのため多くの着物専門買取業者では、ウールの着物の買取を行っていません。また買い取ってもらえた場合でも、数百円程度にしかならない可能性が高いです。

「ウールきものだ」という見分けがつくのであれば、ネットオークションやフリーマケット等で売りに出した方が多少は高い価格で売れる可能性があります。

おわりに

黄八丈の特徴や手放す際の注意点はいかがでしたか?ちなみに本物の伝統工芸品「本場黄八丈」の場合、中古買取価格は5万~10万円近くにまで上がることもあります。「自分では見分けがつかない」「証紙が無くてわからない」という場合には、専門の着物鑑定士がいる着物専門買取業者に査定を依頼してみることをおすすめします。現在では査定無料としているところも多いので、気軽に買取価格を教えてもらえますよ。

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