高額買取をされる着物の代表格とも言えるのが「伝統工芸品」の着物類です。伝統工芸品とは、手作業の伝統的技法によって作られる織物や染め物等の製品のこと。経産省認定の伝統工芸品と、各自治体が認定する伝統工芸品があります。
そのような伝統工芸着物のひとつが、宮崎県で生産される「綾の手紬(あやのてつむぎ)」です。ここでは「綾の手紬」の着物について、その特徴や歴史、買取に出す場合の注意ポイント等を詳しくご紹介していきます。
この記事の目次
そもそも「綾の手紬」とは何?
綾の手紬の「紬(つむぎ)」とは、蚕(かいこ)の繭(まゆ)から糸をつむいで作った「絹(シルク)」の平織物のことです。「綾の手紬」では、糸を作る工程(紡績)から染め・織りに至るプロセスまでが手作業であるため「手紬(てつむぎ)」という名称が付けられています。
宮崎県東諸島県郡綾町で始められた工芸品で、「宮崎県指定伝統的工芸品」として認定されている他、町の無形文化財にも指定されています。
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・ご紹介
宮崎県綾町の上質な紬・薄生成り地に小さな琉球古典絣
思う所があって特殊な当店価格10万円台後半(税別)からの歳末バーゲン現代の名工・日本工芸会正会員「秋山眞和」さんが創設した綾の手紬工房にて織られた紬 pic.twitter.com/OuvMFzwsqa
— 徳島 きもの 婦久や|呉服(着物/浴衣)専門店|専務のつぶやき (@kimono_fukuya) 2017年11月26日
綾の手紬の歴史
「綾の手紬」の技法が創製されたのは1960年代のこと。様々な伝統工芸品の中では、比較的新しい部類と言えます。しかしその技法のルーツは古く、元々は創製者である秋山眞和氏のお父上が沖縄で行っていた「沖縄の絣織物(琉球絣等)」の技術がベースとなっています。
染色家である秋山氏は、更に古来から用いられた藍染め技法や「大和貝紫」を使った古の紫色の染色技術を復元。さらには「花織(はなおり)」といった、日本の古来の伝統技法を取り入れました。
希少な技法をふんだんに取り入れた「綾の手紬」は、国内だけでなくフランス・パリ等の海外展示でも好評を博しています。生産元・生産量が限定されることから希少価値も高く、今後も高値での着物の取引が行われることが予測されています。
綾の手紬の作り方
綾の手紬はどうやって作られるのでしょうか?その工程を見てみましょう。
1)「綾の手紬」では、織物に使う絹(シルク)の元となる「蚕(かいこ)」の生産から作業を行っています。日本古来の在来種である「小石丸」の卵を孵化させエサをやり、繭になるまで育てます。
2)蚕の繭を煮て、手作業で糸を紡ぎます。この工程は「糸取り」「座繰り(ざぐり)」等と呼ばれます。
3)糸を染色します。「綾の手紬」では、藍染め・貝紫染等の伝統的な技法によって糸の染色が行われます。藍染めには天然灰汁(あく)を使用した発酵建てという、室町時代に一度途絶えたと言われる染の技法が使われています。
4)織りの準備のために糸を巻き取って引き揃えます。
5)絣(かすり)糸と合わせ、再度染色を行います。染色後には糊付けを施します。その後、括りをほどきます。
6)機織り機にタテ糸をかけていきます。タテ糸の本数は1,400本以上。一本たりともかけ方や順番をまちがえることができない繊細な作業です。
7)沖縄琉球織りをルーツとした技法で、機織りを行います。
8)織物を湯にくぐらせて糊を落とし、反物を幅出しして仕上げます。
ここでは工程をかなり省略してご紹介していますが、実際には作業工程は30位上にも及びます。多量の時間と手間がかかる作業を経て、一枚の織物が作られるのです。
綾の手紬の特徴
全行程が手作業・現地生産
伝統工芸品の着物・織物はたくさんありますが、原料の生産から染色・織りまでの工程をトータルで行っているところはかなり珍しいです。「絹織物」と言っても、原料の絹糸は中国産であったり、輸入の麻糸であったり…といったケースが多い中、飼育する蚕の種類まで在来種にこだわった「綾の手紬」はまさに日本古来の伝統工芸品と言えるでしょう。
手織りならではの柔らかな風合い
織物には「手織り」と「機械織り」の2種類があります。全行程手作業にこだわる「綾の手紬」は、もちろん自動機械を使わない「手織り」です。
機械織りでは糸のテンションがピンと固く張ってしまいやすく、生地が固くなりがち。しかし手織りの生地は柔らかく、ほどよい弾力があります。そのため「綾の手紬」の着物はシワになりにくく、着やすいのです。また「綾の手紬」の帯も「結びやすく緩みにくい」という高い評価を得ています。
見た目に美しいだけでなく、使いやすい着物である--そのため「綾の手紬」は、着物愛好家から好まれる工芸品となっています。「綾の手紬」が高価買取されやすい理由には、このような理由も挙げられるのではないでしょうか。
綾の手紬を買取に出す場合の注意点
リサイクルショップや質屋はNG
原料の生産から染め・織りに至るまで、そのすべてが伝統技法という希少な着物「綾の手紬」。しかし着物の専門知識が無いショップやスタッフですと、この着物の価値を判断するのは難しいでしょう。
「紬」は留袖や訪問着等の礼服としては着用できず、着物の部類としては「普段着」のジャンルに入れられる着物です。伝統工芸品に詳しくないショップだと、二束三文で買い叩かれる可能性も考えられます。
一般的なリサイクルショップや質屋等、着物に詳しくないお店に売るのはおすすめできません。きもの専門の鑑定士等が在籍する、着物買取の専門業者に見積もり依頼をした方が安心です。
査定額アップのためには「証紙」が必要
綾の手紬は技法・染色にも特徴があるため、証紙無しでも専門知識があるお店であれば買取を行ってくれる可能性は高いでしょう。しかしやはり「綾の手紬」の代表作家・秋山眞和の作品であるという証紙(ラベル)がある製品の方が、高価買取してもらいやすいのはまちがいありません。
おわりに
「綾の手紬」の着物の特徴や買取に出す際の注意点はいかがでしたか?「綾の手紬」の代表作家である秋山眞和氏は、近年「現代の名工」の指定も受け、さらに紫綬褒章も受賞されています。「綾の手紬」の評価が今後も高いものであり続けるのは間違いなしと言えるでしょう。
とは言え、絹織物である「紬」は、変色や虫害等にあいやすく、美しい状態で保管するのが難しいものですから注意が必要です。「もう着ることが無い」という場合には、美しい状態であるうちに価値のわかる業者に買取依頼をされることをおすすめします。