出典:wikipedia
その独特な製法と風合いで人気のある着物である小千谷縮。世界的な無形文化遺産登録まで受けている伝統工芸品であり、高い価値があることでも知られています。着物好きな方であれば、名前を聞いただけで「夏のファッションにぜひとも取り入れたい!」と考えるはず。でも着物に普段親しまない方だと「どんな着物なんだろう?」と首をひねってしまうかもしれませんね。
ここでは小千谷縮の特徴や制作法、歴史について詳しく解説をしていきます。また着ない小千谷縮を手放す場合の注意点等についてもあわせてご紹介していきますので、ご参照ください!
9月に入ってまたいきなり暑くなった…で、先日の「ちょっとそこまで」の着物は小千谷縮の綿麻紬。筒袖の半襦袢、半幅帯。帯はお尻を少しカバーしてほしいので吉弥結びで。色は秋を演出したくもありましたが、まだちょっと暑苦しくなりそうで外の空気に合わせ緑で統一 pic.twitter.com/nbY4VI9yu8
— ぬえ (@yosinotennin) September 7, 2019
本日はグレーの小千谷縮にアンティークのきものを解いて帯に作り変えたものを組み合わせています。
この帯、かなり気に入っているので夏になると頻繁に使っていますが、元の生地がアンティークなので傷みやすいのが欠点。なので作り帯にしてあり、さらに同じ生地でもうひとつ帯の予備があるんです(^^) pic.twitter.com/zfOw2ILWTl— きくちいま (@imappage) July 18, 2019
この記事の目次
小千谷縮とは
小千谷縮(おぢやちぢみ)とは、新潟県小千谷市とその周辺地域で生産される麻織物、ならびに織物から作られた着物のことです。1955年という非常に早い段階で国の重要無形文化財に指定された他、1970年代には伝統工芸品の指定を受け、さらに2009年には国際連合教育科学文化機関であるユネスコから無形文化遺産の登録を受けています。
なお重要無形文化財の指定を受けた製品は、「本製小千谷縮(ほんせいおぢやちぢみ)」という名称が付けられています。
【本製小千谷縮の条件】
1)手績みした苧麻(ちょま)を使用する
2)手括りによる模様付けである
3)織りにはいざり機(いざりはた)を使用する
4)しぼとりは湯もみもしくは足踏みとする
5)雪晒しでさらす
上記の製造工程の条件をすべて満たしたものでないと「本製小千谷縮」の登録を受けることはできません。ちなみにこの全条件を満たした本製小千谷縮の製造量は、一年にたった数反!数百万の値がつく最高級品となっています。
facebook 重要無形文化財 越後上布・小千谷縮布技術保存協会
南魚沼市の公式ウェブサイト:ユネスコ無形文化遺産「小千谷縮・越後上布」
重要無形文化財 越後上布・小千谷縮布技術保存協会 ウェブサイト
小千谷縮の歴史
新潟における麻織物の歴史は非常に古く、奈良時代に作られた正倉院には越後生産の麻布が収められていたとも言われています。元々湿気が多く雪の多く降る新潟の機構は麻の生産に適しており、さらに冬場には農産物の生産が難しいことから、多くの農民達が麻布の生産に取り組んでいたのです。
そんな中、越後麻布の製造法を大きく変える人物があらわれました。江戸時代、播磨国(現在の兵庫県)からやってきた堀次郎将俊(明石次郎)です。彼は地元の絹織物である「明石縮(あかしちぢみ)」の生産方法を越後麻布に応用。改良された布は「越後縮」と呼ばれるようになり、全国的な人気を得るようになったのです。
朝廷や将軍家への献上品にも越後縮(現在の小千谷縮)が贈られたとの記録が遺されているほどですから、その人気と高級品ぶりがわかりますね。
しかし寛政の改革・享保の改革といった当時の圧政によって越後縮は大きく生産を制限され、一時は生産が途絶えそうになるほどの打撃を受けます。そんな中でも地道に伝統工芸の技術は後継者達へと伝えられてきました。
戦後に重要無形文化財・ユネスコの無形文化遺産登録を受けたのも、生産方法等をキチンと受け継ぎながら丁寧な制作が続けられてきたことが理由となっているのでしょう。
新潟)麻織物、歴史ある手作業 越後上布と小千谷縮 https://t.co/dRxQiv3lUm
※世界無形文化遺産に登録/蒸発した雪から発生するオゾンの効果で…— 新潟発!! 地域情報サイト「ミンツ」 (@mints_niigata) February 10, 2019
#新潟伝統的工芸展 へ○小千谷縮や塩沢織など興味があったのでそこを覗くと機織り体験ができた*手織の面白さと大変さを肌で感じた良い経験でした。 pic.twitter.com/PVUWy6AIbr
— UTOPIA/YutoSato (@Yuto_25) February 9, 2019
小千谷縮の作り方・生産方法
重要無形文化財である「本製小千谷縮」は、そのすべてが人の手によって作られています。特徴的な生産工程をご紹介しましょう。
手績み・苧績み
青苧をぬるま湯に付けてから水分を取り、手で裂きながらつないでいきます。髪の毛程度の細さにまで爪を使って割いてゆき、それを指先で少しずつつなぐという、大変高度な技術が求められる手わざです。
小千谷縮に使われる青苧は乾燥を嫌うため、雪が振って湿度の高い冬場に主に糸作りが行われます。反対に夏場は乾燥してしまうので、ほとんど生産ができません。
いざり機
本製小千谷縮はすべて、いざり機という機織り機で織られます。織る人が足を前に出して床に座るような形で織る、日本でも最も古いタイプの機織りです。現在ではいざり機を扱える人が非常に少なくなっています。
いざり機は織る人の腰に経糸を回しハリ具合を調節しつつ織るという、体全体で織るような織り方が特徴。そのため独特の柔らかな風合いが生まれます。
湯もみ・足ふみ
織り上がった布の糊を湯の中で揉んで柔らかくする「湯もみ」または水槽のような「舟」にぬるま湯を入れて足で揉む「足ふみ」を行います。糊でバリバリになっていた布が徐々にほぐれてゆき、小千谷縮の特徴でもある「シボ」が美しく見られるようになります。
雪さらし
湯もみ・足踏みで仕上げた布を、最後に雪の上に広げて太陽に当てます。雪に反射した紫外線の効果で麻布が漂白され、より美しい仕上がりになる効果があるとされています。真っ白な雪の上に晒される小千谷縮の様子は、雪国の冬の風物詩でもあります。
小千谷縮の雪さらし綺麗だったな〜👌💓雪でさらすことにより小千谷縮が漂白されるんです\(^^)/小千谷の伝統文化です♪ pic.twitter.com/aZmfqLO1TM
— 田中彩貴 (@tanasaki_20) February 24, 2018
小千谷縮の特徴
シボの風合い
小千谷縮の大きな特徴が、「シボ」と呼ばれる細やかなシワの風合いです。これは谷根にお湯の中で湯もみ・足踏されたことによって生まれた小千谷縮独自のもの。シボの様子が見た目にも爽やかで美しいだけでなく、肌に直接布が触れないため、涼しく着ることができます。
夏向けの着物として愛用
通気性の良い麻であること、さらに上記のようなシボの風合いがあることで、小千谷縮の多くは夏向けの着物として好まれています。高温多湿な日本の風土には非常に合った着物ですし、温暖化の中で今後ますます小千谷縮は需要が上がると考えられています。
ランクの差が激しい
上記では最高級品である「本製小千谷縮」について紹介しましたが、実は「小千谷縮」にはその他にも種類があります。大きく分けるとランクは3つに分けられます。
・前述した「本製小千谷縮」
【Bランク】
・苧麻を手紡ぎした糸ではなく、紡績糸を使ったもの
・いざり機ではなく、手機を使ったもの
【Cランク】
・紡績糸を使用
・自動機織り機を使用
・雪晒しを省略
Cランクになりますと、反物で数万円といった手軽な価格帯になります。AランクとCランクで価格の差が100倍以上にもなるという点も大きな特徴のひとつと言えるでしょう。
小千谷縮を買取業者に売る場合の注意点
総合買取より着物専門買取業者がおすすめ
小千谷縮を手放す場合、着物鑑定士等のプロが在籍する「着物専門」の買取業者に売りに出すことをおすすめします。
いわゆるリサイクルショップ等の総合買取ショップは避けた方が良いです。買取担当者に着物の知識が無いと、小千谷縮は「麻の着物」にしか見えません。買い叩かれるか、下手すると冬場等には「売れないので」と買取を断られる可能性すら考えられます。
証紙の所在を確認しましょう
前述したとおり、「小千谷縮」は一反数百万の超高級品から数万円の手軽な品まで、幅広いバリエーションがあります。目利きの鑑定士が居る買取業者であれば、良い品は高く買ってもらえる可能性が高いですが、やはり証紙・証明書があった方が強いです。
特にAランク小千谷縮を手放すということでしたら、購入した際の証紙をお探しになった方が良いでしょう。数百万円の品物を数万で手放すようなことにもなりかねません。
おわりに
小千谷縮の歴史や特徴、また買取業者に売りに出す場合の注意点はいかがでしたか?小千谷縮は上でご紹介したとおり「重要文化財」から「気軽に着られる一枚」まで幅広い品がある伝統工芸品の着物です。素人目には価値判断がやや難しいところもありますので、鑑定等には着物に詳しい人を頼った方が良いでしょう。
また天然染色・天然製品なので、保存にも気をつけたいところです。手元に置く場合には虫食いや褪色等が起きないように、十分に注意しましょう。