茜染(あかねそめ・あかねぞめ)という染め物や着物をご存じですか?優しく深い赤色をした着物は、古来より日本で好まれてきました。現代に入り着物文化が若い女性の間で再注目される中、「茜染」の人気も再度上昇しています。最近ではCMで女優の杏さんが茜染(南部茜染)の着物をお召になったことで、さらに注目度がアップしているようです。
今回は茜染・南部茜染の歴史や特徴、また茜染の着物を買取してもらう場合の注意点等について詳しく解説していきます。
この記事の目次
茜染とは何?
出典:Wikipedia アカネ(茜、Rubia argyi)
「茜染」とは、つる性多年草植物「アカネ」の根を使った草木染めの一種です。「茜」はクサ冠に西と書きますが、茜染めはまさに晴れた日の西の空のような夕焼け色をしているのが特徴。華やかな赤色でありながら、優しさが感じられる深みのある色合いとなっています。
近年ではTシャツやスカート等の洋装品、小物類等で外国の「茜」を使った草木染め製品を販売するお店も増えていますね。
伝統工芸としての「茜染」としては、岩手県の南部絞(なんぶしぼり)のひとつ、「南部茜染(なんぶあかねそめ)」代表的です。南部絞りには紫根の根を使った「紫根染(しこんぞめ)」とこちらの「茜染」があり、いずれも大変貴重な品となっています。南部茜染の製品としては、着物・帯(木綿や絹)の他、風呂敷やクッションカバー、手提げ、テーブルセンター、ブックカバー等の小物類も販売されています。
茜染めの歴史
世界での茜染の歴史は、はるか昔にさかのぼります。紀元前2600年頃から栄えた「インダス文明」の遺跡からも、木綿を茜染をしたものが発見されたのだとか。大陸を徐々に東へ東へと伝わった茜染の技法や文化は、2世紀頃には日本にも到達していたようです。3世紀には茜染めの技法が日本で定着し、衣類等が作られていたことがわかっています。
飛鳥時代から奈良時代にかけては、都を中心に茜染が盛んに行われるようになりました。万葉集には額田王(ぬかたのおおきみ)による「茜さす紫野ゆき標野ゆき野守は見ずや君が袖振る」という歌も遺されています。いかに「茜」が浸透していたかがわかりますね。正倉院や法隆寺にある宝物にも、茜染の製品は多数遺されています。
この頃にさかんだった日本茜(ubia akane Nakai)を使った染色方法は、室町時代頃に一度途絶えてしまいました。しかし江戸時代頃には、現在の福岡県(黒田藩・筑穂町等)で、独自の茜染の技法が発展し、茜染によって日の丸の旗を染めたとの記録も遺されています。
現在では日本茜の生産がほとんど無いため、茜染を生産している染物屋はごくわずかです。前述した岩手県・南部絞の「南部茜染」が代表格となっています。
茜染の染め方
ここでは南部茜染の染色方法を、簡略化してご紹介します。
1)生地に付いている糊や油分を取り除く
2)灰汁(あく)等を使用して下染めを行う
3)下染めした液が定着するまで6ヶ月程度置く
4)型紙で模様を刷り込む
5)「絞り」の作業を行う。すべて手作業で3ヶ月~6ヶ月程度かかる
6)茜の根を臼で搗いたものを熱湯で抽出・濾過し、漬け込み液を作る
7)絞りを行った反物を染める
8)1時間おきに染めるプロセスを10回以上繰り返す
9)絞った状態で3年~5年以上置いて、染を定着させる
10)染め上がった反物の絞りをほどく
11)軽く水洗いをして仕上げる
「絞り」には「括り絞り(くくりしぼり)」や、縫い糸を引き抜いく「縫い絞り(ぬいしぼり)」、板を使って絞る「板締め絞り(いたしめしぼり)」などがあります。強く絞った部分には染色が行われないためその部分が白く残り、美しい文様となります。
昨日はいっぱいいっぱいでツイートできませんでした_ノ乙(、ン、)_
なーのーでー!今日は元気出して久しぶりに茜染をしてみました( ´∀`)
これからの季節、腹巻大事!!茜は体を温めますから、相性抜群なのです。
出雲も朝晩がだいぶひんやりしています。 #茜染 pic.twitter.com/amNvPaWGXI— ふわっと女将→はたご小田温泉 出雲 (@odaonsen) 2018年10月22日
氏神様に初詣
仕事は4日から#きものはじめ #黄八丈 #茜染 pic.twitter.com/SAUbLD4Y3S— koubouq (@kumoko5) 2019年1月2日
茜染の特徴
茜染にはどんな特徴があるのでしょうか?ここでは「南部茜染」に限定し、その特徴を解説します。
対称的な文様が連なる
南部茜染は「南部絞り」という別の呼び方があるくらい、「絞り染め」である点が大きな特徴となっています。無地の部分はほとんど無く、生地全体に絞りによって生まれた模様が連なっており、その素朴な風合いも魅力です。
小物類の場合には柄がポイント使いされたデザインもありますが、着物では「全面的に柄があるデザイン」と考えて良いでしょう。そのため着物の分類としては、「小紋」や「おしゃれ着」といった感覚でお召しになる人が多いのではないでしょうか。
生産地が限定される
前述のとおり、日本茜を使用した伝統技術「茜染」は、現在では岩手県の南部絞りでしか見られなくなっています。「南部絞り」は岩手県盛岡市にある『草紫堂』の登録商標であり、岩手県の伝統工芸品です。現代日本で「茜染の着物」と言えば、ほぼ「草紫堂の南部絞り」と言って間違いないでしょう。
茜染着物を買取に出す場合の注意点
「茜染の着物を持っているけれど、もう着ることが無いので手放したい…」そんな時の注意点をご紹介します。
着物専門の買取業者を選ぶ
南部茜染を売りに出す場合には、必ず着物の専門知識がある「和装専門の買取業者」を選ぶようにしましょう。業者選びの際には、きもの鑑定士等の専門家が居るかを確認した方が良いです。
南部茜染は上記でご紹介したとおり、柄行が全体に連なる着物であるため、着物に対する知識ない人だと「単なる小紋(普段着)」と判断される可能性があります。せっかくの高級品が、安く買い叩かれてしまう恐れもあるのです。「貴重な伝統工芸品」という価値を理解できる業者を選ぶことを強くおすすめします。
取扱いに注意!
南部絞り・南部茜染は人気商品であるため、反物の状態でも売れますし、古い着物でも知識のある業者なら買い取ってくれることでしょう。天然染料を使った南部絞りは時間を置くほどさらに色に深みが出て、良い品となることも多いのです。
おわりに
茜染の特徴や注意点はいかがでしたか?茜染の深みのある赤色は、若い女性にはもちろん、年齢を重ねた女性にも似合う色合いです。そのため茜染の着物は幅広い層から人気があり、今後もその人気は落ちることが無いでしょう。状態が良ければ高価買取が期待できる工芸品のひとつと言えます。