着物業界だけではなく、一般的なテレビドラマやバラエティ番組等でもたびたび登場する「大島紬(おおしまつむぎ)」。高級品として紹介されることが多いので、着物に詳しく無い人でも「大島紬という名前だけは知っている」というケースが多いのではないでしょうか。
しかしその名前の先行ぶりに対して、実際の大島紬について知っている人は少数に留まっています。ご家族のご遺品等に大島紬があってもその価値に気づかず、二束三文で処分してしまった…というケースも珍しくないようです。
ここでは大島紬の特徴について、その歴史や作り方等も含めて詳しく解説していきます。また大島紬を手放す時の注意点についてもあわせてご紹介しますので、「着ない大島紬が手元にある」という方も参考にしてみてくださいね。
今日は、大島紬を着ました☺︎
ピシッ! pic.twitter.com/fJo2kPuxUp— 西田あい (@nishidaai) October 13, 2019
大島紬足袋😍😍😍😍😍😍😍 pic.twitter.com/V3GeAzFRp2
— りはる (@riharu_s) October 20, 2019
この記事の目次
大島紬とは?
大島紬とは、鹿児島県の南方にある奄美群島で作られれる伝統的な製法による平織物、ならびにその織物から作られた着物のことを言います。また鹿児島市内・宮崎県内等でも生産されていますが、以下のような表記によって区別されています。
・奄美大島で生産されたもの → 本場奄美大島紬
・その他鹿児島県内・宮崎県内で生産されたもの → 本場大島紬
江戸時代頃までのは大島では麻(ラミー)、糸芭蕉、木綿糸等が使われてきましたが、養蚕の技術が使わったことで絹糸による平織物が制作されるようになりました。当時は繭から糸を紡ぐ紬糸(つむぎいと)を使っていたので、名前が「大島紬」なのです。
なお現在では生糸を使用しますし、海外の絹を導入していることがほとんどです。そのため厳密に言うと「紬織物」ではありません。しかし絹100%であり、同時に独特の製法をきちんと守っている製品については「大島紬の定義に叶う」ということで伝統工芸品大島紬としての販売が認められています。
大島紬の歴史
大島紬の元となる織物が生まれたのは、はるか昔、奈良時代頃でないかと考えられています。当時すでに手紡ぎによる紬がおられていたという記録があるほか、久米島紬の技術が流れてきたという説も有力です。とは言え、紬の生産法が大きく進歩したのは戦国時代から江戸時代にかけての頃。大島や琉球各地に紡績向上が作られ、一気に紬の生産力が上がりました。
しかし18世紀に入ると、奄美大島を統括する薩摩藩によって紬の着用が禁止されます。真綿による織物が使えない--そんな中で、人々は芭蕉を使った繊維で紬を織り出す独自の製法を生み出したのです。
さらに明治時代に入ると廃藩置県によって薩摩による制限が取り払われ、鹿児島では向上生産制度も取り入れられるようになりました。紬糸ではなく玉糸に、いざり機から高機にと生産方法を切り替えることで、さらに市場人気と生産性が高まるようになっていきます。
昭和の時代に入ると、新たな着色法や合成染料を使った生産法も生み出され、よりバラエティ豊かな大島紬が作られるようになりました。戦時下には大島紬の生産が停止され、伝統製法が途絶えることが不安視されましたが、奄美大島の日本復帰により1950年代には再度生産が本格化。
1970年代の高度経済成長時代には全国的な「高級嗜好品」としての人気が高まり、一躍人気の着物に躍り出たのです。現在でも大島紬は「高級品」かつ「通好みの品」として、多くの着物好き達から愛用されています。
大島紬の作り方
大島紬には様々な種類があるのですが、ここではその代表的な染色方法である「泥染め」と、独自の工程「絣締め」についてご紹介します。
泥染め
テーチ(車輪梅・シャリンバイの木)で染色を行い、さらに泥田に漬け込んで馴染ませながら染めていく染色方法です。シャリンバイのタンニンという成分と、泥の中に含まれる鉄が化合することで、美しい「黒」い染めが生まれます。その黒の光沢、そして絹のしなやかさと丈夫さは、大島紬独特のものです。
しかしテーチも泥もすぐ染まるものではありません。テーチ木染20回+泥染1回を一工程として、それを4回は繰り返す必要があります。つまり美しい黒い糸を作り出すために、染の工程を80回以上も繰り返しているわけです。
【ash12 参加作家】
〈YUKIHITO KANAI〉 @yukihitokanai @kanaikougei
1979年 奄美大島生まれ。本場奄美大島紬の泥染めを担う金井工芸。泥染めをはじめとする天然染色に携わりながらも新しいジャンルへの取り組みも行っている__ https://t.co/gD69TAWIdR pic.twitter.com/zmckI3318y— ash_satsuma (@ash_designcraft) October 26, 2019
締め機(しめばた)
大島紬では、織りを行う前に「絣締め(かすりじめ)」という独特の工程を加えます。作っておいた大島紬の図案に従って、木綿糸を絹糸に対して織り込んでいく作業です。こうすることで、絹糸を染めても木綿糸の部分には染料が入りません。絣模様に合わせて、小さく白い部分が絹糸に残り、繊細な柄行を生み出してくれるのです。
このような細かな工程を経ることから、「大島紬は二度織る」とも言われています。糸の段階で一度織り、さらに染めてからまた織って…というわけですね。大島紬の価格を聞くとビックリされる方が多いですが、このような手間ひまのかかる工程を聞けば納得されるのではないでしょうか。
民映研作品を毎日上映 情報
◉10/21~23 19:00~
奄美の泥染 1983年/31分
参加費1000円 予約不要です。奄美大島の大島紬。
絹の緻密な絣織物。
緻密な絣を再現する知恵が「締め機」と呼ぶ工程。
縦糸と横糸では全く違う作業。
申し訳ありませんが、一回観ただけでは絶対理解不能なんです。 pic.twitter.com/YwY0Gc1dlA— 民族文化映像研究所 (@mineiken) October 22, 2019
大島紬の特徴
製法の種類が多い
「大島紬」と一口に言っても、実はその製法には様々な種類があります。ここでは代表的な分類方法をご紹介しておきましょう。
絣糸の使い方による分類
1.縦横絣大島:タテ・ヨコの両方に絣が入るもの
2.横総絣:横糸が絣のもの
3.横双:絣の横糸だけで、柄を作り出しているもの
4.縦双:絣の縦糸だけで、柄を作りだしているもの
5.ジャジャ織り:柄を合わせず、横絣を織るもの
染め方による分類
1.泥染め:前述したテーチと泥(泥土)を使って染色したもの。つややかな黒の渋みのある色合いが特徴。
2.泥藍(どろあい):泥藍大島とも呼ぶ。地色は前述した泥染めだが、絣模様の部分を藍で染めてあるのが特徴。
3.色大島(いろおおしま):化学染料等も使用する染色方法です。泥染・泥藍とは異なり、色合いが幅広く鮮やかなのが特徴となっています。
大島紬というと「渋く、素朴な雰囲気」を連想される方が多いのですが、実際には色大島のような華やかな色合いのものもありますし、柄行にも様々なものがあります。かなり勉強をしておかないと「大島紬」を見分けられないのです。
おしゃれ着として使用する
大島紬は前述してきたとおり繊細かつ複雑な製造工程を経て作られる伝統工芸品であり、そのため日本を代表する高価な着物でもあります。
しかし紬に分類される着物は、格としてはあくまでも「おしゃれ着」。より厳密に言えば、カジュアルな普段着の扱いです。そのため結婚式や式典等、フォーマルな礼服が求められる場には大島紬は着ることができません。お茶席でも紬を着ていくのは原則としてNGとされています。
しかしこの「高級品だが礼装ではない」という点が、かえって着物好きの間では好まれています。洋服で言えば、ハイブランドが作るジーンズやヴィンテージジーンズのようなもの…と言えば、着物に興味の無い方でもイメージが湧くのではないでしょうか。
大島紬を業者に売る場合の注意点
着物に強い専門業者に売ることが鉄則
大島紬を近所のリサイクルショップや質屋等で手放すのは絶対にNGです。一般的な需要のある友禅等に比べると、大島紬は華やかさには欠けますし、前述の通り礼装用に使用できる見た目ではありません。大島紬の価値をわかるスタッフが居ない限り、「普段着扱い」で二束三文で買い叩かれる可能性が高いです。着物診断士等が在籍する着物買取専門の業者に持ち込むことを強くおすすめします。
証紙を探しておきましょう
大島紬は染色・製造工程が独特なので、目利きの鑑定士がいる買取業者であれば証紙無しでもある程度の高額買取は期待できることでしょう。とは言え、証紙があるのと無いのとでは買取価格にかなりの差は出ます。より高額な買取を目指すのであれば、「本場奄美大島紬」または「本場大島紬」の証紙を探しておいた方が良いでしょう。
おわりに
「大島紬」は例えば金沢友禅等に比べるとパッと見た時の雰囲気は素朴ですし、素人目には「地味だな」と思われてしまうことも多いです。そのため多くの方が大島紬の本当の価値に気づかず、手近なリサイクルショップ等で大島紬を安価に手放してしまっています。
「良いものを価値のわかる人に使い続けてもらう」という意味でも、きちんとした目利きの居る業者に売ることが大切ではないでしょうか。なお「大島紬」と一口に言っても、前述のとおりその製法は様々ですし、それによって買取価格にもかなりの差が出ます。どれもこれもが何百万の最高級品ではないことは知っておいた方が良いでしょう。